S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 たしかに紗夜は、仕事に派手なメイクや髪型は必要ないと思っているし、服装も簡素な装いばかり。

 さらに一年目の仕事中に至ってはほとんどビジネススーツスタイルだったので、地味で目立たないと言われれば頷くしかない。

 それでも紗夜は、やはり『部下に気づかないなんてことがあるのだろうか』と感じてしまう。

(……でも……本郷課長なら、あり得るのかも……?)

 和季の力説につい黙り込んでしまう紗夜だが、そういえば以前、本郷が『うちの課には俺好みの美人がいない』と口走って、女性陣を怒らせていたことを思い出す。

 そのときは紗夜も『なんてデリカシーがないのだろう』と感じたが、あれが部下の外見に――もちろん紗夜の顔立ちにも一切興味がなく、そもそも細かいところまで覚えていないことを意味するのなら、街で見かけても本当に気がつかないのかもしれない、と思い至る。

 つまりあの会話に出てきた『女性』を、和季は紗夜のことを話し、紗夜は一緒にいた女の人のつもりで聞き、本郷は会社とは無関係の女性だと思って頷いていた、ということだ。

 紗夜が「むむむ」と唸ると、和季が再度深いため息を零した。

「だから俺は、そのまま課長に話を合わせることにした」

 乾いた声に反応した紗夜が顔を上げると、和季が心底面白くなさそうな表情を浮かべている。

 そんな憂いを帯びた仕草すら端正な和季の横顔にじっと魅入っていると、ふとこちらに視線を落とした和季が、はぁ、とがっくり首を落とした。

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