S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
ただでさえ和季に突き放されたように感じて気持ちが沈んでいたのに、この一年間で培ってきた知識や経験がすべてリセットされると知って、それもまた紗夜の心に重石となってのしかかった。
のちに経理課の長である増井からは『深田さんが優秀だから』と褒められたが、本心では『たった一年で配置を換えられるほど自分は無能だったのか』と密かに落ち込んでいたのだ。
だがそこに和季の力が働いていたとは、考えてもいなかった。
「特権の乱用すぎません……!?」
明里家の御曹司だからといって、当時まだ人事部へ異動になる前だった和季が社員の配置を自由に操作するのは、明らかに職域を侵しすぎている。
それはいくらなんでもやりすぎなのでは、と思う紗夜だが、和季の態度は飄々としたものだった。
「いや、実はそうでもない」
「……え?」
「増井課長は、俺と紗夜の関係も、紗夜の異動の経緯も、全部知ってる。知った上で、課長自ら『深田さんがいい』と希望を出したんだ」
「!?」
さらに衝撃的な事実を告げられ、声も表情も固まってしまう。
和季の口から増井の名前が出てくることにも驚いたが、まさかその増井が紗夜と和季の関係を知り、さらに紗夜の異動にも関わっているとは思ってもいなかった。
びっくりして目を見開いていると、紗夜の表情を確認した和季が、ふとやわらかく微笑む。