S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

「元々、抜ける古谷(ふるや)さんの代わりになれそうな人がいないかと相談されていたんだ。そのタイミングと俺の希望が合ったから、紗夜を推薦したってだけで」

 和季の説明によると、和季の方から紗夜の異動を願ったわけではなく、増井の方から人員配置について相談があったらしい。

 寿退社が決まっていた女性社員の古谷だけでなく、若い男性社員の村上(むらかみ)が、二月末になって急に『転職するので辞めます』と告げてきた。そのため、経理課では新年度から一気に二人が減ることとなった。そこで白羽の矢が立ったのが、紗夜だったというわけだ。

 もちろん和季だけでなく紗夜まで抜けることになれば、財務課も一気に二人が減ることとなる。

 だが財務課では、育児休暇を取得していた松岡(まつおか)という女性社員が職場復帰することが決定していたので、それなら財務課から経理課に一人異動させてもいいのでは、と和季の方から提案した。

 そこに増井も乗っかり、のちに本郷からも了承を得られたため、急遽紗夜の異動が決まった、という経緯らしい。

 そこまで聞いて、はた、と気づく。

「じゃあ、さっきのスパイって……」
「そう、増井課長のことだ」

 紗夜がおそるおそる問いかけると、和季があっけらかんと頷いた。

「あの人、親父のゴルフの師匠なんだよ。だから俺も、入社どころか子どもの頃から知り合いなんだ。俺はゴルフはやらないけど、困ったときはよく相談に乗ってもらってる」
「し……知りませんでした……」

< 255 / 304 >

この作品をシェア

pagetop