S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
「元々、抜ける古谷さんの代わりになれそうな人がいないかと相談されていたんだ。そのタイミングと俺の希望が合ったから、紗夜を推薦したってだけで」
和季の説明によると、和季の方から紗夜の異動を願ったわけではなく、増井の方から人員配置について相談があったらしい。
寿退社が決まっていた女性社員の古谷だけでなく、若い男性社員の村上が、二月末になって急に『転職するので辞めます』と告げてきた。そのため、経理課では新年度から一気に二人が減ることとなった。そこで白羽の矢が立ったのが、紗夜だったというわけだ。
もちろん和季だけでなく紗夜まで抜けることになれば、財務課も一気に二人が減ることとなる。
だが財務課では、育児休暇を取得していた松岡という女性社員が職場復帰することが決定していたので、それなら財務課から経理課に一人異動させてもいいのでは、と和季の方から提案した。
そこに増井も乗っかり、のちに本郷からも了承を得られたため、急遽紗夜の異動が決まった、という経緯らしい。
そこまで聞いて、はた、と気づく。
「じゃあ、さっきのスパイって……」
「そう、増井課長のことだ」
紗夜がおそるおそる問いかけると、和季があっけらかんと頷いた。
「あの人、親父のゴルフの師匠なんだよ。だから俺も、入社どころか子どもの頃から知り合いなんだ。俺はゴルフはやらないけど、困ったときはよく相談に乗ってもらってる」
「し……知りませんでした……」