S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 会社の人間関係のすべてを把握しているわけではないが、それにしても、社内にはまだまだ紗夜が知らないことが溢れている。

 おそらく社長である和季の父と経理課長の増井がゴルフ仲間で、しかも彼がその社長にゴルフを教えていることなんて、ほとんどの社員が知らないだろう。

 さらに常務の相談にも乗っているなんて、知っている人はゼロだと言っても過言ではない。紗夜もまったく気づいていなかった。

 いや、だがよくよく考えてみたら、不思議に思うことはあった。接点がないはずの和季がなぜか増井がチョコレート好きなことを知っていたり、廊下で雑談をするほど親しげだったり、疑問に感じる瞬間はあったのだ。

 そしてこうして話を聞くと、先ほど和季が急に会社の前へ現れたことも納得できる。

 紗夜の帰宅を知っていたかのようなタイミングはただの偶然ではなく、紗夜が自宅に籠城する前に確保しようと考えた和季から事前に増井へ依頼があり、紗夜が退社したことを知らせてもらっていたのだろう。まさにスパイである。

 用意周到な和季の行動につい黙り込んでしまうと、紗夜の肩を掴む指先にそっと力が入った。

「そこも含めて全部説明するつもりだったのに、まさかフラれるとは思わないだろ」
「……」

 本郷から紗夜を遠ざけるために増井の下へ避難させることを決めた和季は、翌日からその根回しのためにあちらこちらへ走り回った。

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