S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 和季ほど頻繁ではないが、一応、紗夜と唯人が仕事で顔を合わせる機会もゼロではない。よって紗夜の口から和季と菜穂子が一緒にいたことがうっかり伝わってしまう可能性を危惧して『言わない』『話を逸らす』という選択をしたらしい。

 むろん和季は、それが唯人ではなく紗夜から関係を疑われるきっかけになるとは微塵も想像していなかった。

「この春に俺が常務になって、兄貴が副社長になっただろ? でもあいつ、うちの会社の内情をちゃんと把握してなくて、受付で『明里常務の婚約者です』って名乗ったらしいんだ。だから受付も勘違いして、俺の執務室に案内したんだろうな」

 なるほど。たしかに経営陣の編成が変わってから、まだ四か月しか経っていない。社員や取引先の担当者ならばともかく、ルミリュクスとはなんの関係もない一般人ならば、組織の編成や内情を正確に認識できていないのも頷ける。

「けど三崎が用があるのは俺じゃなくて、兄貴だからな」
「……はい」

 和季が諭すように教えてくれるので、こくりと頷く。

 菜穂子に落ち度があるとするならば、受付で相手の肩書ではなく名前を伝えるべきだった、ということだ。

 ただし恋愛経験が乏しい紗夜には、『他人に恋人の名前を告げる気恥ずかしさ』が手に取るようにわかる。

 それに落ち度があると言うのなら、問題はむしろ受付で対応した者の方だろう。

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