S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
受付嬢が菜穂子のアポイントメント相手をしっかりと名前で確認すれば、人事部の女性社員も紗夜も勘違いなどしなかったし、和季の手を煩わせることもなかったのだ。
いや、今回の件で最も悪いのは、間違いなく早とちりで和季を疑ってしまった紗夜自身だ。紗夜が素直に和季から事情を聞けていれば、話はここまでこじれなかったのだ。
本当にごめんなさい……と心の中で猛省しつつ、それでも和季の顔を見つめて言葉でちゃんと確認する。
頭ではちゃんと理解しているが、彼の口からもう一度同じ言葉を聞かなければ、このモヤモヤとした気持ちが完全には晴れない気がしたからだ。
「では彼女は、和季さんの婚約者ではない……?」
「ちがう。そんなわけないだろ。慣れないヒールを履いてきたうえに超方向音痴の三崎をそのまま放置するわけにいかないから、俺が案内しただけだ」
紗夜がおずおずと訊ねると、和季がきっぱりと否定してくれる。
その清々しいほどはっきりとした宣言に、紗夜の中でわだかまっていた『疑問』と『悲しみ』と『後悔』がすぅっと静かに消えていく。
二年前に感じた強い衝撃と喪失感。必死に蓋をして見ないふりをしてきた自身の恋心と、和季から密かに向けられていた甘やかな感情。
再び和季を信じようと思ったはずが、結局は信じ切れなかった弱い自分。それでもやっぱり彼に惹かれてしまう気持ち。
ぐちゃぐちゃになって濁ってしまっていた感情が、ようやく透明感を取り戻してあるべき場所へ戻ってきたように感じる。