S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 だから変な期待はしないで……と言いかけた紗夜だったが、そこで莉乃から予想外の一言を拾われる。

「え……。紗夜、常務のこと、下の名前で呼んでるの……?」
「えっ……? そ、そうだけど……それは前から……っ……え?」

 莉乃から驚愕の表情を向けられ、サァと血の気が引いてしまう。

 莉乃に事情を知られて以降、プライベートの話をするときは彼女の前でも『和季さん』と呼んでいたはずだ。

 だがそれは紗夜の勘違いで、実は莉乃との会話の中ではいつも『明里常務』と呼んでいたので、急な変化に驚かれてしまったのだろうか。

 いや、それよりも、やはり雲の上の上司である和季を下の名前で呼ぶのは、いけないことなのだろうか。

「や、やっぱりだめかな……!?」

 紗夜があわあわと狼狽えながら訊ねると、莉乃が満面の笑みを浮かべて自身の発言を翻してくる。

「冗談よ。そんな泣きそうな顔しないで」
「!?」
「紗夜は本当、からかい甲斐があるわね。常務の気持ちがわかるわぁ」
「し、心臓に悪いからかい方しないで……」

 どうやら遊ばれていたらしい。莉乃の笑顔にがっくりと肩を落としながら文句を言うと、またくすくすと笑われる。

 その笑顔を目にするたびに思うのだが、莉乃は少し、和季と似ている。恋愛経験が豊富で、人を観察するのが好きで、いつも余裕たっぷりに紗夜をからかってくるところが。

 紗夜の反応を一度楽しむと、すぐに悪い冗談を引っ込めて、ごめんごめんと頭を撫でてくるところも。

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