S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
和季が社内で関係を明かしたことで避けにくくなったため一応は応じたが、今夜の挨拶により確定したのは、紗夜と和季が別れたときに彼の両親に盛大な肩透かしを食らわせてしまうことと、紗夜が周囲から笑われて憐れまれるということだけ。
なので安心もなにもない……と思っていると、隣の和季がぽつりとなにかを呟いた。
「次は、俺の番だな」
「……?」
和季の声が思いのほか小さく、内容が上手く聞き取れない。
紗夜が首を傾げると、その視線に気づいた和季が「いや」と小さく首を振り、その代わり紗夜に別の提案をしてきた。
「紗夜。終わったあと、抜けれるか?」
「え……?」
「このホテル、今日は関係者ばかりだろ。だから少し離れた別のホテルに、部屋を取ってあるんだ」
周囲の喧騒には紛れるが、紗夜の耳には確実に届くような声量で誘われ、ぴたりと動きを止める。
――今夜も一緒に過ごしたい。そう言われているのだと察した紗夜の顔を見て、和季がにこりと微笑む。
「紗夜さえよければ」
「……はい」
追撃するような誘い文句に、少し恥ずかしい心地を味わいながらも、そっと顎を引く。
主催の身内で常務取締役も務める和季なので、まだまだ挨拶をしなければならない相手がいる。だがそのあとの時間はすべて紗夜のために空けられる、と匂わされたら、断れるはずがない。
和季の誘いに照れて俯くと、彼がまたそっと表情を崩して、紗夜に微笑んでくれた。