S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

「また連れてきてやるから」
「そんな……。一回経験できれば十分ですよ」
「連れてくるよ。紗夜が喜んでくれるなら、何度でも」

 案の定、紗夜が座り心地を確かめる機会はかなり先延ばしにされてしまう。さすがに次までお預けはないと思うが、いずれにせよ今すぐ紗夜を下ろしてくれるつもりはないようだ。

 仕方がないので長椅子の座り心地は、あとで彼がバスルームを使っているときにでもゆっくりと堪能させてもらうことにしよう……と考える紗夜だが、彼はただ意地悪をしたかったわけではないらしい。

 紗夜の顔をじっと覗き込んだ和季が、ふと真剣な表情を見せる。

「だから紗夜。――俺と、結婚してほしい」

 和季がさらりと言い放った一言に、紗夜の動きがぴたりと止まる。

 言われた意味が咄嗟には理解できず、

「え……?」

 と、間抜けな声を発して、和季の膝の上で氷のように固まってしまう。

「で……でも、私たちはまだ……」
「付き合ったばかりだ、って?」

 ようやく絞り出した返答の続きを和季に奪い取られたので、一瞬だけ言葉に詰まる。だがすぐにこくりと頷いて、その通りだと態度で示す。

 けれどそんな紗夜の返答も想定の範囲内だったらしく、和季は細いため息を零すばかり。

「俺は、二年半も待った」
「……和季さん」
「もう紗夜を手放す気はないんだ。一生な」

 一生、と重たい感情を証明する一言を付け加えられ、再び声を失ってしまう。

 和季が将来のことを考えている気配は、紗夜も密かに感じ取っていた。彼の視線や言動や指遣いからはいつも独占欲と執着心が滲み出ていて、しかもその感情が日に日に増していることにもうっすらと気がついていた。

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