S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
だが三階と二階の間の踊り場までやってくると、足が自然と止まってしまう。先ほど目にした通知が、気になって気になって仕方がないせいだ。
「……」
右手に握りしめていたスマートフォンを見下ろすと、意を決してパスロックを解除する。
振動のパターンからも一瞬だけ見えた表示からもわかっていたが、やはり先ほどの通知は電話の着信ではなく、メッセージの受信だった。
そしてスマートフォンの中央に浮かび上がっているその名前に、心臓がどくどくと音を立て始める。
小さなウインドウに表示されている名は『明里 和季』
紗夜が勤める『株式会社ルミリュクス』の常務取締役を務める人物で、紗夜が新卒で入社したばかりの頃、一年間指導係を務めてくれていた先輩。そしてその一年のうちの後半三か月、紗夜と恋人関係にあった相手だ。
(……和季さん)
今はもう呼べない名前を、心の中でそっと呟く。
この二年間、彼とまったく接点がなかったわけではない。関係の終了とほぼ同時期に和季の方が経理部から人事部へ異動となってしまったが、その後も業務上必要なやりとりを交わしたり、廊下ですれ違った際に挨拶をしたりと、接する機会は何度もあった。
だが交わされるやりとりは、あくまで業務を円滑に遂行する上で必要な、最低限のコミュニケーションでしかない。