S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
けれど結局、紗夜は和季の手を取った。優しく頼れる先輩である明里和季のことをもっと知りたいと感じて、差し出されたその手を掴むという選択をしたのだ。
つまり最大の理由は、社内恋愛禁止の規定違反じゃない。だからその規定が撤廃することを理由に誘われても、あの日以上に強く求められたとしても、紗夜には応じられない。――なぜなら。
「和季さんには、婚約者が……!」
当初はまったく知らなかった。紗夜と交際する一方で実は他にも相手がいたなんて、想像もしていなかった。
だが和季には、将来を考えている女性がいた。紗夜のような一時的な遊び相手じゃない、真剣に『結婚』を見据えている相手がいたのだ。
あれからどうなったのか、結婚の話が少しずつでも進んでいるのか、ここ最近の様子はわからない。だが少なくとも二年前の和季には『特別な存在』がいて、紗夜が両天秤にかけられていたのは事実だ。
そんな和季と再び恋を始めようとは思えない。また自分ばかりが本気になっていくだけだとわかっていながら、もう一度彼の誘いに乗れるほど、紗夜は無邪気にはなれないのだ。
「ん? 婚約者……?」
紗夜の一言を耳にした和季が、疑問を感じているような声と表情で首を傾げる。その姿を目にして、紗夜もはっと我に返る。
――告げるつもりのなかったことまで、勢いで喋りすぎてしまった。