S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
玄関でパンプスを履いていると後を追いかけてきた和季に「送って行こうか?」と訊ねられた。だがそれも「要りませんっ!」とはっきり拒否する。
紗夜の威嚇がおかしかったのか、和季が声を立てて笑い始めた。その余裕のある態度が余計に悔しくて、叫ぶように「お疲れさまでした!」と言い残すと、逃げるように和季の部屋を後にする。
エレベーターを待っている間は彼が追ってくるのでは、とソワソワとしていたが、箱に乗り込むと急に力が抜けて一気に疲労感を覚えた。
「はあぁ……もう……」
大きなため息をついてエレベーターの壁にもたれかかる。
こんな状況に陥ると知っていたらここにはやってこなかったのだから、今から一時間前に……いや、残業のペースを調節して確実に回避するためにも、どうにか夕方ぐらいまで時間を戻してほしい、と思ってしまう。
「優しくて紳士だった和季さんは、どこに行っちゃったの……?」
紗夜の知る明里和季という人は、いつも明るくさわやかで、誰に対しても優しく誠実で、どんな仕事も完璧にこなしつつ後輩指導まで完遂するという、天才肌な人だった。
恋愛面でも愛情深く紳士的で、常に紗夜のやりたいことや気になることを優先し、逆に紗夜が嫌がったり怖がったりすることはさり気なく避けてくれるという、気遣い上手な人だった。