S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
もちろん感情が追いついていない紗夜を追い詰めるような意地悪は言わなかったし、一夜に五回、などという不埒な発言をする人でもなかった。
――この二年で、一体彼になにがあったのだろうか。
「まさか、わざと……?」
もしや和季は、今後職場で会ったときに気まずい空気にならないよう、あえて明るい冗談を交えつつさり気なく紗夜を逃がしてくれたのかもしれない。
これ以上関わるつもりはない、という強い意思を感じ取った結果、遊び相手として紗夜を誘うことは諦める、という選択をしたのかもしれない。
「だったら、もうこれきりかな……」
もしそうなら、和季はこの先二度と紗夜には声をかけてこないだろう。
元より和季のような外見も中身も完璧な男性ならば、地味で平凡で自分が直接指導してきたという面倒な関係の後輩じゃなくても、遊び相手なんていくらでも見つかるはずだ。
どんなに扱いやすく声をかけやすい相手だと言っても、明確に拒否した女性を強引に誘って後々トラブルになるリスクを考えれば、今後は個人的な関わりは避けられる可能性が高いと思われる。
「……うん。これでいい……」
小さなため息とともに、独り言をぽつりと零す。
これで紗夜の望む形に落ち着いた。もう和季に声をかけられることはない。
――そのはずなのに、無心になるとなぜか和季の切ない表情ばかり思い出してしまう紗夜だった。