S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
食べきれない量のお菓子をもらったのでそれを古巣の財務課へ差し入れるのならまだわかるが、なぜ隣の経理課に持ってくるのだろう。
まさか、紗夜の様子を確認するきっかけを作るために、自分で用意した……? と訝しんでいると。
「深田」
「!」
和季がふと、紗夜に向かって声をかけてくる。呼ばれたのは名前ではなく名字だったが、和季と目が合うだけで先週末の恥ずかしい出来事を思い出して、腰のあたりがわずかに震えてしまう。
しかし和季本人は数日前の出来事も紗夜の反応も気にした様子はなく、飄々とした態度だ。
「チョコ好きだろ? 先に確保しておかないと、増井課長に全部食べられるぞ」
「……ありがとうございます。……大丈夫です」
増井と部下たちが「冷蔵庫に入れた方がいいかな?」「固くなりません?」「でも常温だとクリーム傷みますよ」と盛り上がっているのをいいことに、和季がさらに一歩、紗夜の傍へ近づいてくる。
「紗夜」
「! ……っ~~!?」
直前は名字で呼ばれたのに、今度は急に名前で呼ばれる。その甘さを含んだ声にびくっと驚いて身を固くするが、周囲から見えないように腕を掴まれているせいで、すぐには離れられない。
「このワッフル、店だと焼き立てが食えるらしいんだ。今度、一緒に行こうな?」
「はっ? え、いえっ……あ、のっ……!」
和季が他の人には聞こえないように、声量を落として紗夜を誘ってくる。だが急な接近に慌てるあまり、意味の成さない短い音しか発せない。