S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
離れてから元恋人として接したことは一度もない。さらにこの春から、和季はルミリュクスの社員ではなく、ルミリュクスを経営・運営する側の取締役に就任したのだ。
手の届かない雲の上の存在となった彼の名前を馴れ馴れしく呼ぶようなミスなど、あってはならない。
わかっている。
――大丈夫、ちゃんと弁えている。
大きく吸った息を細く吐き出しながら気持ちを整え、意を決して届いたメッセージを開いてみる。
だがそこに記された文言を目にすると紗夜の心臓はびくりと飛び跳ね、思考も完全に停止してしまった。
『仕事が終わったら、俺の家に来てほしい』
たった一文。ほんの一言。
けれどこれが仕事に関する呼び出しではなく、プライベートな用件での呼び出しであることは、明らかだった。
以前、経理部に所属していた和季は、知っているのだろう。経理課の社員全員が月末は残業になることも、その処理が終了する時間も。
そしてあまりに早い時間に連絡すると、紗夜が『残業があるので無理です』と返答することも、逆にあまりに遅くなると『もう帰宅したので無理です』と言い訳することも。
紗夜の仕事、性格や返答パターンのすべてを熟知した上で、あえてこのタイミングを狙い撃ちしてきている。
そう気がつくと、背中と手のひらにじわりと変な汗をかく。頬が火照って、そわそわと落ち着かない気分になってしまう。