S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
和季の激励に二人同時に頷くと、和季が紗夜に笑顔を向け、峰木の肩をポンと叩き、そのまま経理課を出ていく。
和季の姿を目で追うと、見送りのために通路へ出た増井と和季がなにか話している姿が見える。
しかし会話はすぐに終わったらしく、やがて和季が廊下の向こうへと消えて行った。
正直『一体なにしに来たのだろう?』と疑問を抱く。だが和季がなにを考えているのかなんて、考えたところでわかるはずがない。
「か、かっこいい……!」
「峰木くん、仕事するよ」
「はぁい」
和季とフランクな会話をするのはこれがはじめてだったらしく、峰木が未だ感動が抜けきっていないような、ぽやぽやの声で返答してくる。
今朝から社内全体がなんとなく浮足立っている中で、おそらくただ一人、峰木だけが違う理由で浮かれているだろう。
常務は芸能人じゃないよ? と苦笑いしつつ自分の席に座ろうとした紗夜だが、そこで小さな異変に気がついた。
ふと左手に、金属質の固いなにかが触れたのだ。
「えっ……?」
思いがけない感触に驚き、サッと視線を下げてみる。
するといつも職場で羽織っているカーディガンのポケットに、身に覚えのない銀色のヘアピンのようなものが引っかかっていることに気づく。
え、なにこれ、と目を瞠りかけた紗夜だったが、直後にその正体に気がつく。
――これは、先ほどまで和季が身につけていた、ネクタイをワイシャツに留めておくための『ネクタイピン』だ。