S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
8時間後への布石
「? 深田先輩、どうかしました?」
「!」
思いもよらない状況に立ち尽くしていると、隣の席の峰木が不思議そうな表情で声をかけてくる。
その声にハッと我に返った紗夜はふるふると首を振りつつ、彼に見られないうちにカーディガンからサッとネクタイピンを取り外した。
「う、ううん、なんでもないの」
苦笑いを浮かべながら引きかけていたワークチェアをデスクの下へ押し込み、そのままオフィスの出入り口へ足を向ける。
「ちょっと出てくるね。すぐ戻るから、入力お願いしていい?」
「了解です。じゃあマーケ部の分から処理していきますね」
「ありがとう」
笑顔で頷いてくれた峰木はきっと、紗夜が急に催して用を足したくなった、とでも考えているのだろう。
お腹を壊したと思われるのは少々不本意だったが、余計な詮索をされないのはありがたいので、ここはその誤解に素直に乗っかっておくことにした。
オフィスを出てフロアホールを小走りに抜けると、オープンラウンジの裏側にある階段を使って上階へ向かう。
八階建てのアカリ本社ビルには家具・インテリアメーカーである「ルミリュクス」と、住宅リフォームを手掛ける「アカリリホームズ」の本社が入っているが、二社の重役たちの仕事部屋はすべて七階と八階に集約しているため、自分の部屋へ向かったと思われる和季を追いかけるのだ。