S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 ちなみに和季はエレベーターをほとんど使わない。もちろん来客や他の重役と一緒のとき、自宅マンションや商業施設では使用するが、一人のときはもっぱら階段で移動しているのだ。

 理由は、エレベーターを待つ時間がもったいないのと、ただ立ち止まっているよりも足を動かしている方が頭がよく働くから、だそうだ。少しでも楽をしたいと思ってしまう紗夜にはない発想である。

 だがその事実を知っていれば、和季の動向をある程度予測できる。

 紗夜の社員IDでは七階と八階のエレベーターボタンを押せないし、上階フロアへ出るドアも開けられないが、階段エリア内を駆け上がって彼の姿を捉えることさえできれば、声をかけて呼び止めることが可能なのだ。

「明里常務……!」

 六階に辿り着いたところで七階へ続く階段を見上げてみると、踊り場を折り返そうとしている男性の足が見える。

 顔までは見えなかったが、あのすらりと長い脚は間違いなく和季だと直感して声を上げると、足を止めた相手がこちらへ振り向いた。

「紗夜」

 ここまで上がってくるだけですでに疲労困憊だったが、こんな場所で親しげに下の名前を呼ばれれば、疲れた足にも勝手に力が戻ってくるというもの。

 残りの階段を慌てて駆け上がり和季の前へ辿り着くと、ぜぇぜぇと肩で息をしながら文句を言う。

「な、名前でっ……呼ばないで、ください……っ」
「いや、体力なさすぎだろ」
「だ、だって……!」

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