S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
もちろん峰木が悪い人というわけではないのだが、ならば異性として好きになるかというと、そういうことでもない。
単純に紗夜の好みとは異なる、という理由もあるが、実は峰木には大学時代から付き合っている彼女がいるのだ。
恋人や婚約者がいるとわかっている相手を、恋愛対象として考えるはずがない。
それがわかっているのにこんなにも心が揺れ動いてしまうのは――きっと後にも先にも目の前にいる和季だけだ。
と、冷静に自己分析している場合ではない。
和季のありえない誤解もしっかり解いておきたいところだが、それよりも始業時間を過ぎている方が問題だ。
こうして無事にネクタイピンを届けられたのなら、あとは一刻も早く部署に戻って、本日の仕事に取り掛かりたい。
「あの、そろそろ離してください……」
未だ紗夜の手首を掴み続けている和季を見上げて文句を言う。だが和季は紗夜を見つめたまま微動だにせず、掴んだ手も放してくれない。
「はぁ……本当はもう少し後で気づかれて、家まで持ってきてもらう予定だったのにな」
「!?」
ため息混じりの独り言に、小さな衝撃を受けてしまう。
最初は紗夜の様子を見るために、わざわざ経理課までやってきたのかもしれない、と考えていた。
だが実際は、仕事が終わる今から八時間後に紗夜を自宅へおびき出すべく、罠を仕掛けるためにやってきたのだという。