S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
「あ、明里常務……っ」
驚いた紗夜が慌てた声を発すると、先ほどまでの不機嫌を引っ込めた和季が紗夜を抱きしめて上機嫌に微笑む。
「ああ、これで仕事頑張れる」
嬉しそうな声に再び固まる紗夜だが、今回の和季は一度身体を抱きしめるだけで、すぐに紗夜を解放してくれた。
「今日はこれで我慢しておく」
「え、あ……あの……!」
「ネクタイピン、ありがとな」
そう言って紗夜の手からネクタイピンを拾い上げるときの笑顔は、紗夜がよく知る優しくて頼り甲斐があって仕事ができる完璧な先輩、明里和季の笑い方だ。
だがその直前までのスキンシップは、紗夜の知らない少し強引で意地悪な一面である。
和季が上機嫌な足取りで七階へ向かっていく。その様子を火照った顔で見上げて、呆然と立ち尽くす。
「も、もう……っ」
ようやく和季から解放されたのに、紗夜の顔の熱は一向に引いてくれない。
このまま自分の部署に戻ったら、同僚たちに体調不良を疑われるかもしれない……と密かに頭を抱える紗夜だった。
◆◇◆
「集中できない……!」
月初めの一週間を無事に乗り切り、ようやく麗しの土曜日を迎えた紗夜だったが、なんだか今日は気が重い。
昨夜は早めに寝たはずなのに疲れは取れていないし、平日にたまった家事をこなすのも億劫に感じるし、休日に少しずつ進めている資格の勉強にも全然身が入らない。
その理由にはうっすらと気づいている。