S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
さらに圧縮してあったマットレスをフレームの上に広げ、梱包に使われていた箱と緩衝材をまとめて回収する。
その箱にちらりと視線を向けてみると、まさかの、というかやっぱりというか、そこにはルミリュクスの名前が記されていた。
「ご苦労さん」
「はい!」
「それでは、ありがとうございましたーっ」
和季の労いを耳にした作業員二人が笑顔と挨拶を残し、段ボールと緩衝材を抱えて部屋を出ていく。
おそらくこの二人は、目の前にいる男性が今運んできたベッドのメーカー会社の役員だとは、考えてもいないことだろう。
いや、そんなことは今はどうでもよくて。
とんでもない状況を目撃してしまったような気持ちで、ゆっくりと視線を上げる。するとこちらを見下ろしていた和季と目が合う。
「隣に越してきました、明里と申します。どうぞよろしくお願いします。これ、つまらないものですが……」
「いやいやいや、え、ま、待って……」
紗夜と目が合った和季が、あらかじめ用意してあったと思われる有名チョコレート店の紙袋を差し出しつつ、お近付きの挨拶を述べてくる。
だが紗夜は理解が追いつかない。
意味が、まったくわからない。
なぜ和季がここにいるのか。なぜ隣の部屋の鍵を持っているのか。引っ越してきたとはどういうことか。あの立派な高層マンションはどうしたのか。
まさか売……と考えていると、和季が紗夜の顔をずいっと覗き込んできた。
「あ、出かけるのか? じゃあ俺も一緒に行く」
――お願いですから、これ以上面倒ごとを増やさないでください!