S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
10秒で会える距離
「紗夜。このマンション組合費ってやつ、どう払えばいいんだ?」
「郵便受けの暗証番号って、どこで変えんの?」
「ここから一番近いドラックストアの場所が知りたいんだ。一緒に行こう」
「……」
これは一体どういう状況ですか……? というのは、聞いても無駄なのだろう。聞けば紗夜には理解不能な説明をされて、余計に疲れるだけだ。
社内で毎日のように顔を合わせたのは六月最初の週のみで、その後はこれまでの二か月と同様、めったなことでは和季には遭遇しない日常に戻った。
だがその代わり朝の出勤前、あるいは夜の帰宅時に、〝偶然〟和季と顔を合わせる状況が続いている。
特に朝はそのまま紗夜と一緒に出社しようとするので、頭も痛いし、胃も痛い。
とはいえそんな生活が二週間も続くと、だんだん和季との〝偶然〟の遭遇にも慣れてくる。声をかけられるタイミングまで予測できるほどだ。
「紗夜」
「……なんですか? 私、すごく疲れてるんですけど」
「怒るなよ」
今日は帰りの電車もスーパーのレジもなんとなく混んでいたせいか、マンションに辿り着くまでの間ですでに疲れていた。
なのに一階ホールでエレベーターを待っていたところで嬉しそうに声をかけられれば、疲労感は一気に十倍にも膨れ上がるというもの。不機嫌になるな、という方が難しい話である。