S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
和季だって、元々一人暮らしをしていたのだ。たしかに、あの高級マンションには組合費なんて存在しないかもしれないし、郵便受けの暗証番号なんてデジタル管理かもしれないし、自ら買い物をすることもないので近くのドラッグストアですら誰かと一緒に行きたいのかもしれない。
だがどんな仕事も人付き合いも完璧にこなせる和季なら、この程度の疑問や試練など、少し考えるだけで簡単に解決できるはずなのだ。
そもそも、わからないことがあるのなら、紗夜ではなくマンション管理人か不動産仲介業者に聞けばいい。なのになぜ、毎回紗夜に聞いてくるのだろうか。
と、言いたいことも聞きたいこともたくさんあるが、最早そのツッコミにすら体力を使いたくない。
がっくりと項垂れながらエレベーターに乗り込むと、ホールよりも狭い場所で和季と二人きりになる。
願わくば一言も話すことなく二人の部屋がある十階へ辿り着くことを願ったが、それも無駄な祈りだった。
「紗夜、今日の夕食なに?」
「……。……親子丼です」
「へえ、いいな。美味そう」
無視をするのも嘘をつくのもためらわれ、結局律儀に答えてしまう自分が憎い。メニューを聞いて嬉しそうな表情を見せる和季にきゅんとしてしまう自分は、さらに憎い。
「俺の分もある?」
「あるはずないでしょう」
「けど、作ろうと思えば作れるよな」
和季がにこりと笑みを浮かべて顔を覗き込んでくるので、うぐ、と言葉に詰まる。