S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
たしかに、腕に引っかけたエコバッグから見えている玉子が一パック十個入りであることと、鶏肉が入っている食品トレーの大きさから、増やそうと思えば分量を増やせることは一目瞭然だ。けれど。
「部屋行っていい?」
「だめです」
もしも紗夜がここで『ご馳走しますよ』といえば、和季は自分が食べた分どころか、今日の買い物にかかった費用の全額を払うと言い出すだろう。だが、そういう問題ではない。
「会社の人に、知られたくありません」
「俺が隣に住んでるって?」
紗夜がぽつりと呟くと、和季が首を傾げて聞き返してくる。
その回答は、合っているようで少しだけ違う。
「プライベートで接点があったことを、です」
「……過去形、か」
紗夜の回答を耳にした和季が、不満げな表情で声のトーンを落とす。紗夜の答えが気に入らなかったらしい。
紗夜の知る限り、このマンションにルミリュクスの社員は住んでいない。
だが近隣の別マンションに住んでいたり、友人や恋人がこのマンションに住んでいたりと、活動範囲が重複している可能性はある。
だから万が一会社の人に遭遇した際に事実を知られないよう――社内恋愛が禁止されていた時代のプライベートな接点が露呈しないよう、念には念を入れたいのだ。
「俺は早く知られたいけどな」
しかし和季は違う考えらしい。それどころか、本心では紗夜と真逆の願望を抱いているという。