S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
「明里常務、昔はこういう人じゃありませんでした」
「ん?」
その疑問と困惑をぽつりと呟くと、和季が足を止めて首を傾げる。
彼の停止につられるよう紗夜も足を止めて振り返ると、胸の奥に広がる小さなざわめきを素直に言葉にした。
「以前の常務は、もっと慎重で、思いやりがありました。でも今は強引で、大胆で、人の話を聞いてくれなくて……」
紗夜と付き合っていた頃の和季は、仕事でもプライベートでも冷静で思慮深く、紗夜の気持ちや考えに寄り添ってくれる人だった。
他人の視線には配慮するし、待ってほしいと言ったら待ってくれるし、嫌だと言ったら無理はしない。
けれど紗夜が頷いたときは強い力で抱きしめて、恋愛初心者の紗夜を優しく導いてくれるような、大人の余裕が感じられる人だった。
「なりふり構ってられないんだよ」
紗夜の指摘に、和季がふう、とため息をつく。一度止めた足を踏み出し、紗夜の傍までゆっくりと近づいてくる。
「社内恋愛が解禁になるってことは、紗夜が俺以外の男と付き合うこともできるようになる、ってことだ」
社則が変更されたことで気になる異性へのアプローチが可能になったが、その条件はすべての未婚社員に適応される。よってもしも気になる相手がいるのなら、その相手にいかに迅速にアプローチできるのかが重要となる。
だからこそ今はやりすぎなほど大胆に行動している、と説かれれば、たしかにそれは一理ある、と納得しそうになる。