S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
「前と違って、今は仕事で接する機会が少ないからな。必死なんだ、俺も」
きっぱり『必死』と言い切った和季と見つめ合うと、胸がどきどきと高鳴る。
和季のアプローチにときめいても仕方がないとわかっているのに、真剣な声で真剣な言葉を向けられれば、心の奥が自然とざわめいて震えてしまう。
(……だめなのに)
本当は、和季が紗夜を一時的な相手だと考えていることを知っている。彼にとっての自分が、いつか結婚するまでの遊び相手であることを弁えている。
だがそんな相手のためにわざわざ引っ越しまでしてくるだろうか、という小さな疑問が、紗夜の理性をかき乱す。
紗夜を見つめる黒く澄んだ瞳が『間違いなくこの目で見てこの耳で聞いた〝ゆるぎない真実〟が、本当はなにかの間違いなのではないか?』と揺さぶってくる。
――そんなはずがないことは、紗夜自身が一番よくわかっているのに。
急に疲労感が増してきたので、くるりと踵を返して歩みを進める。自分の部屋に辿り着くまであと約十メートル、それよりも近い和季の部屋までなら、大股であと十歩以内だ。
和季の部屋の前までやってきたところで、後をついてきた彼に追いつかれる。
しかしこれで和季は自分の部屋の前に辿りつけたので、話はこれで終了だ。
と思っていたのに。
「なあ、紗夜の好きな人って誰?」
「……え?」
間近に迫った和季に急に二の腕を掴まれ、そっと顔を上げる。再び見つめ合った和季に「またその質問ですか?」と問い返したくなる。