S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 呆れた紗夜は実際にそう質問しようとしたが、口を開く直前で、目を真ん丸に見開いた和季がパッと視線を逸らした。

「いや……やっぱり、言わなくていい」

 悔しそうな表情を浮かべた和季が、なぜか自分の質問を自分で打ち切る。

 急にどうして……? まさか、今ので紗夜の気持ちがわかった? と挙動不審になっていると、はあぁ……と大きな息をついた和季が、紗夜の表情をちらりと盗み見て不満そうな声を出した。

「そんな顔で他の男の名前なんて口にされたら、俺たぶん発狂する」
「ど、どんな顔ですか……」
「自覚ないのか?」

 顔が火照っている自覚はあったものの、和季の目からわかるほど赤くなっているとは思わなかったので、紗夜も慌てて視線を逸らしてしまう。

 和季の質問にどう答えていいのかわからずそわそわしていると、彼が再び紗夜の顔を覗き込んでくる。

 ただし表情は先ほどと違って、少しだけ楽しそうだった。

「この表情(カオ)の紗夜に、俺の名前呼ばせたいな」

 また思いもよらない要求をしてきた和季のせいで、う、と言葉に詰まる。

「呼んで」
「え、えっと……」

 強い口調で名前を呼ぶように求められ、背中にじわりと汗をかく。

 たった三文字の要望なのに、嫌なら和季から距離を取ってさっさと自分の部屋へ逃げ込めばいいのに、なぜか猛獣に爪と牙を立てられて、じわじわと追い詰められている気分になる。

「……明里常務」
「違うだろ、名前だって」

 苦し紛れに役職で呼んで誤魔化そうとすると、和季がくすくすと笑い出す。

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