S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
そう考えて送信ボタンを押したが、今度は次の階段の一段目に足をかけるよりも早く返事がきた。
嫌な予感を覚えつつ、鞄の中に仕舞いかけていたスマートフォンの画面をじっと見つめる。
『仕事の用件じゃない。わかるだろ?』
「……」
――その聞き方は卑怯だ。
文面だけで紗夜の心を揺さぶりつつ感情を探ろうとし、同時に自身の要求もしっかりと捩じ込んでくるあたり、和季はなかなかの策士だ。
元々頭の回転が速く弁が立つ人ではあったが、会話どころか文字だけで相手を翻弄させられるなんて、いくらなんでもずるすぎると思う。
だがこれで、諦めもついた。
やはり和季相手に腹の探り合いは不可能だ。紗夜の知恵と頭脳では、最初から和季に太刀打ちなんてできなかったのだ。
であればここはストレートに断るべきだと考え、
『申し訳ございません。難しいです』
とだけ打って送信する。
これには即座の返信がなかったので、さすがに諦めてくれたのだろう、と思ったが、そうではなかった。
階段を降りて一階へ辿り着き、すでに誰もいないエントランスを通ってルミリュクスの入るアカリ本社ビルを出たところで、鞄の中のスマートフォンが再び震え始めた。
ただし先ほどまでとは、バイブレーションの種類と長さが違う。
「! 電話……」
メッセージではなく電話を着信していると気づくと、紗夜の足と心臓が小さく震え始めた。