S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

衝撃発言2分前


 一瞬、気づかなかったフリをすべきだろうか、と考えた。

 だが直前までのメッセージにはすぐに返信していたのに、電話にはまったく気がつかなかった、というのは明らかにおかしい。

 それに新人時代、紗夜に『自分が納得できるまで答えを追求した方がいい』『簡単に諦めるのはもったいないだろ』と指導してくれた和季なら、たとえ今この瞬間に電話に出なくても、きっと何度だってかけ直してくるのだろう。

 ならば仕方がない、と覚悟を決めると、通行人の邪魔にならないよう道の端へ寄る。

 それから背筋をぴんと伸ばし、なおも振動し続けている受話器のアイコンを右へスライドする。

 それを耳にしっかりと押し当てるかどうかのうちに、スピーカーから和季の声が聞こえてきた。

『紗夜』

 名前を呼ばれた瞬間、心臓がドキ、と甘く鈍い音を発する。

 業務で和季に接する機会があっても、呼ばれるときは必ず名字で、下の名前を呼ばれることはない。

 よって彼に〝紗夜〟と呼ばれるのは、これが実に二年ぶり。職場の先輩・後輩や上司・部下ではなく、彼氏と彼女という特別な関係にあったとき以来だ。

 だが呼び方ひとつでペースを乱されてはいけない。これでは彼の思うつぼだ。

「お疲れさまです、明里常務。なにかご用でしょうか」
『俺の家の場所、わかるよな?』

 用事があるのならさっさと済ませてもらおうと考えていた紗夜だが、挨拶にはろくな返答がなく、代わりに意外な質問をされる。おかげでまたも思考が鈍った。

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