S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

「仕事が終わったらさ、俺とデートしよ?」
「……え?」

 あっさりした台詞でさらりと誘われたことに驚き、顔の、特に耳のあたりの力が抜ける。ぽかんと口を開けた状態で静止したせいか、かけていた黒縁の眼鏡もずり落ちてきた。

 だがそれを元の位置へ戻すための頭が回らない。なにを言われたのか咄嗟に理解すらできない。

 数秒遅れて陽太が『デート』と口にしたことに――仕事の後、そのまま一緒におでかけをしよう、と紗夜を誘っていることに気がつく。

「あ、あの……」

 ようやく我に返った紗夜は、陽太のお誘いを丁重にお断りしようと考えた。あまりにも急すぎるし、誘われる理由も見当たらないからだ。

 だが紗夜が口を開くよりも早く、陽太は二人の傍から離れていた。

「考えておいてよ。返事は仕事終わったあとでいいから」
「え、えっ? 瀬戸く……」
「じゃあ、あとでそこに連絡してね~」

 自分の言いたいことだけ告げた陽太が、ひらひらと手を振りながら紗夜と莉乃のテーブルから離れていく。

 どこかの誰かを彷彿とさせる行動力や強引さについて行けず、遠ざかっていく陽太の後ろ姿をただ呆然と見つめてしまう。

 本当はすぐに追いかけて断るべきだったが、立ち上がる直前で陽太がポケットから白色のスマートフォンを取り出して、それを耳に押し当てている姿が目に入る。

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