S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

距離3センチの懇願


「増井課長。クリップは、こちらでよかったですか?」

 備品庫から持ってきた消耗品を経理課内のストック棚へ補充していると、それまで席を外していた課長の増井が経理課へ戻ってきた。

 増井を呼び止めて黒いダブルクリップが詰まった紙製の箱を見せると、増井がうんうんと大きく頷く。

「そう、これこれ」

 紗夜の確認に増井が手を差してくるので、そこにクリップの箱をのせる。

 どうやら増井は、数枚の紙を留めるためのゼムクリップや、百枚以上の大容量を留める大型の目玉クリップよりも、三十枚前後の紙を留めるこのダブルクリップの使用頻度が高いらしい。

 たしかに彼が『みんな、これちゃんと読んでおいてね』と資料を回覧してくるときは、大体この黒いダブルクリップで紙をまとめているイメージだ。

 そんなことを考えながらトナーと各サイズのコピー用紙をストック棚へ収め終え、所定の場所に台車を戻すと、自席に戻っていた増井に再度声をかける。

「他の物品補充も終わりました」
「そう。ありがとね、深田さん」

 紗夜の報告に増井がにこにこと微笑む。その笑顔に紗夜も頷き返すと、増井が壁にかかった時計をちらりと見上げた。

「今日の作業は終わり?」
「はい」
「お疲れさま。峰木くんと庄野(しょうの)さんも、出納帳の入力終わったかな?」
「う、ういっす……」
「どうにか……」
「うんうん。じゃあ最終チェックはこっちでするから、みんなも帰ろうね。もう定時だよ」

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