高嶺の花も恋をしたい!
 あの時は面接集合時間ぎりぎりで、まともに顔を見ていなかったが、見れば見るほど整った顔をしている。
 センター分けされた前髪に、背中の中くらいまで届くサラサラの長い髪。小さな卵型の顔は陶器のようだ。
 そして何より印象的なのはこの瞳。

「留紺……」
「え?」
「いや、なんでもない」

 藍を何度も重ねた最も濃い紺色。日本の美しい伝統色だ。留紺を思わせる瞳……。この目で見つめられると、なぜか心拍数が上がる気がする。

「お時間取らせてすみませんでした。じゃあ私はこれで」
「え? いや、待て……!」
「はい? なんでしょうか」
「いや、その……お、俺は高野太一だ。同じ会社なんだから名前くらいは……」
「あぁ! ごめんなさい。そうですよね。名前……」

 それまですらすらとお礼の言葉をしゃべっていたのに、なぜか女は突然口ごもってしまった。

 なんだ? 名前を言えないのか? ひょっとして俺、警戒されてる?

 いまだかつて、女にこんな態度を取られたことがなかった俺は慌てた。初対面で名前を聞いてはいけなかったのだろうか。いや、初対面じゃなかった。二度目だよな。それに同期に名前を聞くのはごく普通のことじゃないか。

 そう自分に言い聞かせ、内心焦りつつも彼女の次の言葉を待つ。

「えっと……高嶺花緒、です」

 たかみねはなお。たかみねはなお……。

 漢字を想像していると、彼女が裏を向いていたネームフォルダを俺に向けた。

『高嶺花緒』

 なるほど。高嶺花緒か……って、高嶺の花!?
 この容姿でその名前は……
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