高嶺の花も恋をしたい!
「フッ」
「……今、笑いましたね?」
「え」

 マズい! 人に名前を聞いておきながら笑うとか、俺はなんて失礼なことを……。

 ただ俺は、近寄りがたいほどの美しさの彼女にピッタリの名前でありながら、古風で可愛い感じもすると思っただけなのに。

 しかし彼女はこちらを睨みながら、プルプルと震えている。

「悪い、笑うつもりはなくて……いい名前だと思ったんだ」
「わかってます。何考えてそんな名前を付けたんだって思いますよね。でも私が付けたんじゃないんで」

 だから名前を言うのは嫌なのよ、とぶつぶつ呟く彼女。
 おそらくその名前で、今までさんざんからかわれてきたのだろう。だが――
 
「……ぜんぜん名前負けしてないし。ちょっと古風で可愛い感じがする」
「可愛い……?」

 俺がそう言うと、彼女は驚いたように真っ赤になった。
 なんだろう。そんなこと今までに何度も言われているだろうに、そんなに驚くことだろうか。

「か、可愛くなんてありませんから……あの、そ、それだけなので」
「え?」
「と、とにかく、ありがとうございました。……失礼します!」
「あ、おいっ……」

 赤くなった顔を手で押さえながら、逃げるように走り去ってしまった。

 なんだ? 俺が名前を褒めたからか? 
 想定外の反応だった。あの容姿なら「綺麗」だの「可愛い」だの、言われ慣れているだろうに、あれはどう考えても照れているように見えた。

「……? 謎だな」

 しかし失敗したな。

 手元に残った『かげろう』を見ながら、お礼という言葉に警戒したことも、名前を笑ってしまったことも、全部失敗だったと思う。

 いつもならもっと卒なく対応できるのだが、あの圧倒的な容姿に、俺自身が浮かれてしまったのかもしれない。
< 14 / 237 >

この作品をシェア

pagetop