高嶺の花も恋をしたい!
 入社から今までを思い返してみても、夏崎翔多という人と会った覚えが全くない。

 受付にいる私を、見たことがあるということかしら。

「聞いているのですか、高嶺さん!?」

 ハッ! まずい……考え事をしている場合じゃなかったわ。

「は、はい! 副社長や皆様にもご迷惑をおかけしないよう、精進いたします。末永課長、仲野さん、氏家さん、どうぞご指導くださいませ!」
「フン、まあいいでしょう」

 とりあえず望んでいた返事が聞けたからなのか、それ以上ネチネチと言われることはなかった。

「じゃあ課長、私が細々とした説明をしますね」

 仲野さんが立ち上がって、私を副社長室へ案内してくれた。

「ごめんなさいね。課長、ちょっとネチネチした性格なの。でも悪い人じゃないから。くそ真面目なだけなのよ」
「はあ……」
「若い時に現在の会長……社長のお父様の秘書をされていたことがあって、夏崎家に心酔しているの。別名『夏崎家の執事』って言われてるわ」
「執事!」

 なるほど。確かにテールコートを着てお屋敷をバックに立っていたら似合いそうだ。

 ちょっと笑いがこみ上げてきた。

「副社長室はここよ」

 副社長室に入ると、そこは四畳ほどの前室で、秘書用のデスクとキャビネットが置かれていた。ここが私のデスクになるのだろう。

 さらに奥のドアを開けると、日当たりの良い副社長室が現れた。立派なデスクに、ダークブラウンの革張りのソファとローテーブルの応接セットは、いかにも役員のための部屋という感じだった。
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