高嶺の花も恋をしたい!
 退院はしたものの、慢性心不全が治ったわけではなく、現在は心臓の三割ほどしか機能していないらしい。

 疲れやすいと聞いているから、話は早めに切り上げないといけない。


「仕事はうまくいってるのか?」
「うん。今は和歌山にできるニュータウンの建売りを設計している。建売りと言っても中は自由設計だから大変なんだ。まあ、やりがいはあるけど」
「そうかそうか、それも修行だな」
「そう思って励んでる、でも……」

「これが終わったら丸高組に戻ろうと思っている」そう祖父に告げるつもりだった。ところが……

「太一、うちはな、伝統芸能と同じなんだ」
「伝統芸能……?」

 祖父が突然話を遮って話し始めた。
 一体なにを言い出すのだろう。

「そうだ。例えば代々続く歌舞伎の役者だな。あいつら、好きなことしてるだろ? 歌舞伎を演じながら、一方で映画に出たりドラマに出たり。あれは実は古典を守るうえで大事なことなんだ。古典だけに囚われていたら、世間に忘れ去られるからな。太一が今やっていることは歌舞伎役者と変わらんのだよ。宮大工として古典を守り受け継いでいくことは大事だが、人も会社も、時代の変化に対応できなければその価値を見失う。古典を守るためにも変化できる柔軟性が必要だ。わかるか?」
「うん……」
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