高嶺の花も恋をしたい!
「あっ! やっべー、AirPodsが落ちた……」

 少し間の抜けたようなその声は、私の斜め後方、痴漢男の真横から聞こえた。一瞬にしてザワつく車内。

 チラッとその方向を見ると、若い男性がビジネスリュックを前抱きにし、片耳を押さえていた。

 すし詰めの車内でAirPodsを落とす? 

 それは傍から見れば迷惑行為でしかない出来事だ。
 でも有難いことにその一瞬で痴漢男の手が私の尻から離れた。

 空気を読まないAirPods男は、私にとってまさに救世主だったのだ。

「おっと、すみません。落ちたのそっちの足元なんですよー、多分?」
 
 のほほんとした様子のAirPods男が痴漢男に話しかける。

「えっ、いや……」
「あのー、ちょっとだけ離れてもらえます? あ、すみませーん! 皆さんご協力願えますかー? そちらの人も申し訳ない!」

 AirPods男は大きな声で周りを誘導し、私と痴漢男の間に20cm位の隙間を作った。そして邪魔なリュックをものともせずしゃがみこむ。

「あった!」

 この満員電車の中で、足元に落ちた小さなAirPodsを見つけ出すのは奇跡的なことだ。しかもそれは、まだ誰にも踏みつけられていなかったようで、傷ひとつ付いていなかった。

 周りから安堵のため息が聞こえた。
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