高嶺の花も恋をしたい!
 車を降り、高野に送ってくれた礼を言おうとしたところで「高嶺さん?」と声をかけられた。

「あ、大家さんこんにちは」
「ちょうど良かったわー。今から二階の皆さんを訪ねようとしていたところなのよ」
「はい、どうかされましたか?」
「それがね、申し訳ないんだけど、このアパートたたもうと思っているのよ」
「ええっ!」

 たたむって、アパート辞めちゃうの?

「私も主人も、もう歳でしょう? どっちが先に天に召されてもおかしくないし、今のうちに相続のことも考えて身軽になっておこうと思ってね。今風に言うと終活ってやつね」

 大家さんご夫妻は、今年確か傘寿だって言ってたな。お孫さんが5人いて、そのうちの一人は私と同じO大生だと聞いていた。

 つまり私の祖父母と同年代ということか。

 数年前に祖父が他界した時のことを思うと、大家さんの話はまっとうな考え方だと思う。

 でも、住人にとっては死活問題だ。新たにこんなに安い物件を探すなんて至難の業!

 えー、どうしよう……。

「11月までには引っ越しをお願いしたいの。こちらの都合だから、敷金と礼金は全額お返しするわ」
「はあ……」
「ごめんなさいね。退去日が決まったら先払いの家賃を日割り清算するから、いつでも連絡ちょうだいな」

 そう言って、大家さんは二階への階段を上がっていった。今から同じ内容を在宅中の二階住民に伝えるのだろう。

 でもその足取りは八十歳だけあって、一段一段上がるのが大変そうだった。
 こんな風に間近で見てしまうと、納得せざるを得ない。
 しかし困ったな……。
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