薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
理解するまで数秒かかった。
「待って」
本当に。
待って。
未來。
耕史。
私。
三人とも同級生だった。
昔から知っていた。
少なくとも私は、そう思っていた。
なのに。
耕史が。
坂上先生の息子?
「そんな話、一度も……」
聞いたことがない。
「耕史は知ってるんですか?」
暢さんはすぐには答えなかった。
「そこは、本人に確認する必要があります」
耀さんが連絡記録を見ながら続ける。
「坂上との接点はある。でも、事故や会社のことまで全部知って動いてるようには見えない」
大雅さんも頷いた。
「誰かの指示に乗ってる部分はありそうだな。ただ、核心まで共有されてるかは別だ」
「つまり」
暢さんが言う。
「利用されている可能性があります。ただし、それと髙橋さん自身が神宮寺さんにしたことは別です」
私は黙ったまま画面を見る。
耕史は、駒だったのかもしれない。
でも。
だからといって、耕史自身が私にしたことが消えるわけじゃない。
知らなかったから。
使われていたから。
それだけで全部許されるわけじゃない。
ただ、私が知っていたと思っていた耕史と、今、画面の中にいる耕史が、どうしても一つに繋がらなかった。
未來。
坂上先生。
耕史。
両親。
会社。
事故。
今まで私の中では、全部別々に起きた出来事だった。
不幸が重なった。
ただ、それだけ。
そう思っていた。
だから、ロト7で十二億円が当たった時、全部捨てて、一から人生をやり直そうと思った。
なのに。
「…………」
ふと。
ものすごく場違いなことが頭に浮かんだ。
そういえば私。
ロト7で十二億円、当たったんでしたよね?
あのお金で人生をやり直すはずだったんですけど。
私の十二億円。
……どこへ行った?
いや。
ある。
ちゃんとある。
なくなってはいない。
でも。
存在感が完全に消えている。
ロト7が当たって、人生をやり直そうとして。
それがどうして今、私は完全防音の特殊な部屋で、超人気アイドルから俳優へ活動の幅を広げた人と、その父親と、警察関係者と、変装の達人と、敏腕弁護士たちに囲まれて、自分の過去を解析されているんだろう。
人生。
どこでこうなった?
でも。
笑って誤魔化そうとしても、今聞いたことは消えてくれない。
未來は事故前から両親と接触していた。
坂上先生は、その前から会社を狙っていた。
会社は奪われた。
事故を起こしたのは未來。
そして。
耕史は坂上先生の実の息子。
一つ聞くたびに、私が信じていた過去の形が変わっていく。
「……ちょっと待ってください」
気づけば声が漏れていた。
誰かの説明を止めたいわけじゃない。
ただ。
本当に頭が追いついていない。
「今日……突然、核心に入り過ぎじゃないですか?」
誰も笑わなかった。
私だって、笑わせるつもりで言ったわけじゃない。
でも。
そうでも言わなければ、息の仕方を忘れそうだった。
◇
その時。
大型スクリーンが切り替わった。
それまで幾つもの資料や映像に分かれていた画面いっぱいに映し出されたのは、二階の澤登法律事務所。
陸斗さん。
純さん。
愛梨さん。
そして、記録用の端末を前にした聖子さん。
少しだけ緩んでいた空気が、一瞬で張り詰める。
「来ますね」
暢さんの声が低くなる。
私も自然と画面へ向き直った。
数秒後。
事務所の扉が開いた。
入ってきた人物を見た瞬間、胸が大きく鳴った。
――耕史。
ついさっき、坂上幹司の実の息子だと聞かされたばかりの人。
その本人が、今、画面の中にいる。
息を止めたまま、耕史を見つめた。
未來。
坂上先生。
耕史。
両親の事故。
会社を失ったこと。
そのあと、私に起きたこと。
私はずっと、それぞれが別々に起きた不幸だと思っていた。
運が悪かった。
そういう人生だった。
だからこそ、ロト7で十二億円が当たった時、ようやく全部を捨てて、人生をやり直せると思った。
でも。
本当は。
違ったのかもしれない。
偶然だと思っていた出来事の裏側で、私の知らないところから伸びていた糸が、ずっと前から絡み合っていたのだとしたら――。
「……待って」
自分でも気づかないうちに声が漏れた。
画面の中では、陸斗さんが静かに耕史へ向き直っている。
その姿から目を離せないまま、私はようやく言葉にした。
「私のあの過去って……本当に、偶然じゃなかったの?」
誰も答えなかった。
でも。
もう、目の前に並べられたものが、十分すぎるほど答えていた。
そして今。
その過去に繋がっている、もう一人が陸斗さんの前にいる。
耕史は。
何を知っている?
何を知らない?
そして。
何のために、今日ここへ来たの?
画面の中で、耕史がゆっくりソファへ腰を下ろす。
その正面に、陸斗さんも座った。
「それでは」
静かな声が、三階の部屋へ響いた。
「話を聞かせてもらえますか」
私は無意識に両手を握りしめた。
どうやら。
まだ終わりじゃない。
むしろ――。
ここからだった。
「待って」
本当に。
待って。
未來。
耕史。
私。
三人とも同級生だった。
昔から知っていた。
少なくとも私は、そう思っていた。
なのに。
耕史が。
坂上先生の息子?
「そんな話、一度も……」
聞いたことがない。
「耕史は知ってるんですか?」
暢さんはすぐには答えなかった。
「そこは、本人に確認する必要があります」
耀さんが連絡記録を見ながら続ける。
「坂上との接点はある。でも、事故や会社のことまで全部知って動いてるようには見えない」
大雅さんも頷いた。
「誰かの指示に乗ってる部分はありそうだな。ただ、核心まで共有されてるかは別だ」
「つまり」
暢さんが言う。
「利用されている可能性があります。ただし、それと髙橋さん自身が神宮寺さんにしたことは別です」
私は黙ったまま画面を見る。
耕史は、駒だったのかもしれない。
でも。
だからといって、耕史自身が私にしたことが消えるわけじゃない。
知らなかったから。
使われていたから。
それだけで全部許されるわけじゃない。
ただ、私が知っていたと思っていた耕史と、今、画面の中にいる耕史が、どうしても一つに繋がらなかった。
未來。
坂上先生。
耕史。
両親。
会社。
事故。
今まで私の中では、全部別々に起きた出来事だった。
不幸が重なった。
ただ、それだけ。
そう思っていた。
だから、ロト7で十二億円が当たった時、全部捨てて、一から人生をやり直そうと思った。
なのに。
「…………」
ふと。
ものすごく場違いなことが頭に浮かんだ。
そういえば私。
ロト7で十二億円、当たったんでしたよね?
あのお金で人生をやり直すはずだったんですけど。
私の十二億円。
……どこへ行った?
いや。
ある。
ちゃんとある。
なくなってはいない。
でも。
存在感が完全に消えている。
ロト7が当たって、人生をやり直そうとして。
それがどうして今、私は完全防音の特殊な部屋で、超人気アイドルから俳優へ活動の幅を広げた人と、その父親と、警察関係者と、変装の達人と、敏腕弁護士たちに囲まれて、自分の過去を解析されているんだろう。
人生。
どこでこうなった?
でも。
笑って誤魔化そうとしても、今聞いたことは消えてくれない。
未來は事故前から両親と接触していた。
坂上先生は、その前から会社を狙っていた。
会社は奪われた。
事故を起こしたのは未來。
そして。
耕史は坂上先生の実の息子。
一つ聞くたびに、私が信じていた過去の形が変わっていく。
「……ちょっと待ってください」
気づけば声が漏れていた。
誰かの説明を止めたいわけじゃない。
ただ。
本当に頭が追いついていない。
「今日……突然、核心に入り過ぎじゃないですか?」
誰も笑わなかった。
私だって、笑わせるつもりで言ったわけじゃない。
でも。
そうでも言わなければ、息の仕方を忘れそうだった。
◇
その時。
大型スクリーンが切り替わった。
それまで幾つもの資料や映像に分かれていた画面いっぱいに映し出されたのは、二階の澤登法律事務所。
陸斗さん。
純さん。
愛梨さん。
そして、記録用の端末を前にした聖子さん。
少しだけ緩んでいた空気が、一瞬で張り詰める。
「来ますね」
暢さんの声が低くなる。
私も自然と画面へ向き直った。
数秒後。
事務所の扉が開いた。
入ってきた人物を見た瞬間、胸が大きく鳴った。
――耕史。
ついさっき、坂上幹司の実の息子だと聞かされたばかりの人。
その本人が、今、画面の中にいる。
息を止めたまま、耕史を見つめた。
未來。
坂上先生。
耕史。
両親の事故。
会社を失ったこと。
そのあと、私に起きたこと。
私はずっと、それぞれが別々に起きた不幸だと思っていた。
運が悪かった。
そういう人生だった。
だからこそ、ロト7で十二億円が当たった時、ようやく全部を捨てて、人生をやり直せると思った。
でも。
本当は。
違ったのかもしれない。
偶然だと思っていた出来事の裏側で、私の知らないところから伸びていた糸が、ずっと前から絡み合っていたのだとしたら――。
「……待って」
自分でも気づかないうちに声が漏れた。
画面の中では、陸斗さんが静かに耕史へ向き直っている。
その姿から目を離せないまま、私はようやく言葉にした。
「私のあの過去って……本当に、偶然じゃなかったの?」
誰も答えなかった。
でも。
もう、目の前に並べられたものが、十分すぎるほど答えていた。
そして今。
その過去に繋がっている、もう一人が陸斗さんの前にいる。
耕史は。
何を知っている?
何を知らない?
そして。
何のために、今日ここへ来たの?
画面の中で、耕史がゆっくりソファへ腰を下ろす。
その正面に、陸斗さんも座った。
「それでは」
静かな声が、三階の部屋へ響いた。
「話を聞かせてもらえますか」
私は無意識に両手を握りしめた。
どうやら。
まだ終わりじゃない。
むしろ――。
ここからだった。