薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
その日の夕方。

仕事を終えようと机の上を片づけていると、久しぶりに聞く声がした。

「神宮寺さん」

顔を上げる。

陸斗さんが立っていた。

数日見ていなかっただけなのに、何だか妙に久しぶりな気がする。

「……お帰りなさい」

「ただいま戻りました」

いつも通り。

それなのに、少しだけ気まずい。

だって、最後にまともに話した内容が『結婚しませんか?』ですよ?

しかも、『十六年前から知っていました』までセット。

気まずくない方がおかしい。

私は何となく視線を逸らし、片づけていた書類へ戻ろうとした。

すると。

「神宮寺さん」

また呼ばれる。

「はい?」

今度は真っ直ぐ目が合った。

陸斗さんは少しだけ間を置いてから、いつもの落ち着いた声で言った。

「今晩、食事に行きませんか?」

「…………」

来た。

ついに、保留にしていた話の続きが。

一瞬、断ろうかとも思った。

まだ何と答えればいいのか、自分でも分かっていない。

でも、十日間考えなかったわけじゃない。

陸斗さんのことも。十六年前のことも。あの日、私に言われたたった一言を覚えていてくれたことも。事件が終わっても、そばにいたいと言ってくれたことも。

全部、何度も思い出した。

だから私は小さく息を吐く。

「……仕方ないですね。行きましょう」

そう答えると、陸斗さんの表情がほんの少し変わった。

「本当ですか?」

「誘ったの陸斗さんですよ!」

何で誘った本人が一番驚いてるんですか。

「嫌ならやめます」

「いえ。行きます」

早い。

「即答ですか!」

思わず突っ込むと、陸斗さんは何でもないことのように私を見る。

「やっと会えたんです。行きます」

「やっとって……十日ですよ?」

「十日も、です」

そこ、強調するんですね。

「すぐ行きましょう」

「今ですか?」

「はい」

「まだ片づけ終わってませんけど」

「待ちます」

「いや、そうじゃなくて」

こういうところ、本当に変わらない。

私は苦笑しながら机の上へ視線を戻し、残っていた書類をまとめ始めた。

その間も陸斗さんは帰る気配もなく、少し離れたところで大人しく待っている。

大人しく。

……見えるだけで。

絶対、頭の中では何か考えてる。

だって、この人。

最後に会った時、突然結婚を申し込んできたんですよ?

「はい。終わりました」

最後の書類をしまい、バッグを持つ。

陸斗さんはすぐに立ち上がった。

「では、行きましょう」

「本当にすぐですね」

「十日待ちましたから」

「まだ言う」

私たちが事務所を出ようとすると、背中に妙な視線を感じた。

振り返らなくても分かる。

見てる。

絶対、皆さん見てる。

しかも、生温かい目で。

私は意地でも振り返らず、そのまま陸斗さんと二人で事務所を出た。
< 208 / 290 >

この作品をシェア

pagetop