薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
陸斗さんは、すぐには答えなかった。
手元のメモには、髙橋耕史、深町淳二、新庄篤郎、坂梨未來。
そこへ、神宮寺基、神宮寺美加、馬淵信治郎、坂上幹司。
さらに、両親が経営していた二つの会社。
今まで別々だと思っていた出来事が、少しずつ一枚の紙の上へ集まっていく。
「陸斗」
茂樹先生が、低い声で呼ぶ。
「はい」
「これは……範囲を広げた方がいい」
「そのつもりです」
「え?」
二人を見る。
陸斗さんが、こちらへ向き直った。
「神宮寺さん。調査対象を広げます」
「どこまで?」
「ご両親の事故です」
息が止まった。
「事故を起こした馬淵信治郎。当時の事故記録。刑事・民事上の処理。それから、ご両親が経営されていた二社についても確認します」
さらに、事故当時の会社資産、個人資産、債務状況、相続手続き。
そして、坂上幹司が関与した処理。
最後に。
「坂梨未來さんが、なぜ当時のあなたより事情を把握していたように見えるのか」
「……」
「そこまで確認する必要があります」
「でも、両親の事故って……もう何年も前ですよ」
「だから何です?」
即答。
「時間が経過したことは、確認しなくていい理由にはなりません」
強い。
でも。
「ただし」
陸斗さんは続けた。
「現時点で、坂梨未來さんがご両親の事故へ関与したとは言っていません」
「……はい」
「違和感がある。だから調べる。それだけです」
決めつけない。
期待させない。
ただ、確認する。
「それと」
「まだあるんですか?」
思わず聞く。
「あります」
即答だった。
「事故後の資産整理について、あなた自身が把握していることが少なすぎます」
「……すみません」
「謝る必要はありません」
顔を上げた。
意外だった。
「当時、大学三年ですよね」
「はい」
「父親を事故当日に失い、母親は重傷で意識不明。その八日後には母親も亡くなった。その状態で、会社経営、相続、債務、事故処理まで一人で正確に判断しろという方が無理です」
「……」
初めて、この人が私を責めなかった。
「だからこそ、その時あなたの代わりに判断した人間を確認する必要があります」
坂上幹司。
そして、坂梨未來。
ピピピッ。
二度目のタイマーが鳴った。
「三十分です」
愛梨さんが止める。
陸斗さんは腕時計を確認した。
「今日はここまでにします」
「はい」
少し考えてから、私は言った。
「正式にお願いするかどうかは……一旦、持ち帰って考えてもいいですか?」
「もちろんです」
「……意外」
「何がです」
「今すぐ決めろって言われるかと思いました」
「契約は本人の意思です」
淡々。
でも、当たり前のことをちゃんと言ってくれる。
「分かりました。考えて連絡します」
「はい」
私は立ち上がった。
「今日は、ありがとうございました」
聖子さんも、愛梨さんも、純さんも、茂樹先生も、それぞれ声を掛けてくれた。
陸斗さんだけは。
「お気をつけて」
短い。
本当に、最後までこの人らしい。
私は少しだけ笑い、澤登法律事務所をあとにした。
知らなかった。
私がその扉を閉めた直後。
あの事務所が――。
とんでもないことになり始めていたなんて。
手元のメモには、髙橋耕史、深町淳二、新庄篤郎、坂梨未來。
そこへ、神宮寺基、神宮寺美加、馬淵信治郎、坂上幹司。
さらに、両親が経営していた二つの会社。
今まで別々だと思っていた出来事が、少しずつ一枚の紙の上へ集まっていく。
「陸斗」
茂樹先生が、低い声で呼ぶ。
「はい」
「これは……範囲を広げた方がいい」
「そのつもりです」
「え?」
二人を見る。
陸斗さんが、こちらへ向き直った。
「神宮寺さん。調査対象を広げます」
「どこまで?」
「ご両親の事故です」
息が止まった。
「事故を起こした馬淵信治郎。当時の事故記録。刑事・民事上の処理。それから、ご両親が経営されていた二社についても確認します」
さらに、事故当時の会社資産、個人資産、債務状況、相続手続き。
そして、坂上幹司が関与した処理。
最後に。
「坂梨未來さんが、なぜ当時のあなたより事情を把握していたように見えるのか」
「……」
「そこまで確認する必要があります」
「でも、両親の事故って……もう何年も前ですよ」
「だから何です?」
即答。
「時間が経過したことは、確認しなくていい理由にはなりません」
強い。
でも。
「ただし」
陸斗さんは続けた。
「現時点で、坂梨未來さんがご両親の事故へ関与したとは言っていません」
「……はい」
「違和感がある。だから調べる。それだけです」
決めつけない。
期待させない。
ただ、確認する。
「それと」
「まだあるんですか?」
思わず聞く。
「あります」
即答だった。
「事故後の資産整理について、あなた自身が把握していることが少なすぎます」
「……すみません」
「謝る必要はありません」
顔を上げた。
意外だった。
「当時、大学三年ですよね」
「はい」
「父親を事故当日に失い、母親は重傷で意識不明。その八日後には母親も亡くなった。その状態で、会社経営、相続、債務、事故処理まで一人で正確に判断しろという方が無理です」
「……」
初めて、この人が私を責めなかった。
「だからこそ、その時あなたの代わりに判断した人間を確認する必要があります」
坂上幹司。
そして、坂梨未來。
ピピピッ。
二度目のタイマーが鳴った。
「三十分です」
愛梨さんが止める。
陸斗さんは腕時計を確認した。
「今日はここまでにします」
「はい」
少し考えてから、私は言った。
「正式にお願いするかどうかは……一旦、持ち帰って考えてもいいですか?」
「もちろんです」
「……意外」
「何がです」
「今すぐ決めろって言われるかと思いました」
「契約は本人の意思です」
淡々。
でも、当たり前のことをちゃんと言ってくれる。
「分かりました。考えて連絡します」
「はい」
私は立ち上がった。
「今日は、ありがとうございました」
聖子さんも、愛梨さんも、純さんも、茂樹先生も、それぞれ声を掛けてくれた。
陸斗さんだけは。
「お気をつけて」
短い。
本当に、最後までこの人らしい。
私は少しだけ笑い、澤登法律事務所をあとにした。
知らなかった。
私がその扉を閉めた直後。
あの事務所が――。
とんでもないことになり始めていたなんて。