薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――

第四話 ――ここ、法律事務所ですよね?――

事務所の扉が閉まり、奏の姿が廊下の向こうへ消えていくのを確認してから、茂樹はゆっくりと息を吐いた。

さっきまで浮かべていた柔らかな笑みは、もうない。

「……陸斗」

「はい」

「これは、かなり厄介だな」

陸斗はすぐには答えず、先ほどまでの聞き取り内容へ視線を落とした。

神宮寺奏、坂梨未來、髙橋耕史、深町淳二、新庄篤郎。

さらに、神宮寺基、神宮寺美加、馬淵信治郎、坂上幹司。

一時間半の聞き取りで出てきた名前だけでも、すでに相当な数になる。それぞれが本当に無関係なら、それでいい。

けれど、無関係だと言い切るには、あまりにも違和感が重なりすぎていた。

「坂上幹司まで出てきた」

茂樹が低く呟く。

「ご両親の事故後に、あの男が資産整理へ関わっていたとなると……男女関係の揉め事だけでは終わらない可能性がある」

「現時点で、犯罪行為があったと断定できる材料はありません」

陸斗が淡々と返す。

「分かってるよ。だから調べるんだ」

茂樹が頷くと、すでにパソコンを操作していた征が、画面から目を離さないまま口を開いた。

「始めています」

純が振り返る。

「え、もう?」

「坂上幹司の名前が出た時点で」

「早っ」

征の画面には、法人情報や過去の経歴など、公開されている資料が次々と並んでいた。

「坂上幹司の現在までの経歴。神宮寺夫妻が経営していた二社の履歴。それから、坂梨未來の現在の所属先と関連法人」

「そこまで見てるの?」

「まだ入口です」

純が少し引いた顔をする。

「征って、ほんと怖いわ」

「褒め言葉として受け取ります」

「褒めてない」

いつもの調子ではある。

けれど、その場にいる誰も、本気では笑っていなかった。

茂樹は腕を組み、少し考えてから口を開く。

「問題は、調査だけじゃない」

「彼女の安全ですか」

陸斗がすぐに答えた。

「ああ。まだ何かが起きると決まったわけじゃない。だけど、今聞いた内容が事実なら、念のため動いておいた方がいい」

「同感です」

その一言に、純が陸斗を見る。

聖子も愛梨も、征までちらりと視線を上げた。

陸斗が眉を寄せる。

「何ですか」

「いや」

純が口元を緩めた。

「今日は素直だなと思って」

「必要な判断です」

「はいはい」

陸斗は相手にせず、そのまま続けた。

「ただし、本人の同意なしに何かを決めることはできません」

「もちろん」

茂樹が頷く。

その時、陸斗が手元の資料を閉じた。

「これは俺の案件ですよね」

「そうだけど?」

「勝手に話を広げないでください、と言いたいところですが……」

そこまで言って、わずかに間を置く。

「今回ばかりは、力を借りたいと思います」

一瞬、事務所が静かになった。

「……ひょえー」

最初に変な声を出したのは純だった。

「今、自分から言った?」

聖子まで目を丸くする。

愛梨も真顔で陸斗を見る。

「先生が協力を求めました」

「愛梨さん」

「事実です」

「今日、絶対おかしいって」

純が畳み掛ける。

「無料延長したでしょう? 相談者の時間確認したでしょう? 今度は自分から助けてくださいって」

「助けてくださいとは言っていません」

「ほぼ一緒よ」

「違います」

「熱でもあるんじゃない?」

聖子まで乗ってくる。

「皆さん」

陸斗の声が一段低くなった。

「聞こえています」

「聞こえるように言ってるの」

純は、まったく引かない。

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