薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
そんなことを考えていた、その時だった。

「あら!」

真横から明るい声が飛んでくる。

「あなたが奏ちゃんね!」

「えっ!?」

思わず肩が跳ねた。

振り向くと、知らない女性がすぐ近くに立っていた。

いつからいたの?

六十代半ばくらいだろうか。

綺麗に整えられた髪に、品のある服装。背筋もまっすぐ伸びていて、第一印象だけならかなり凛とした女性だ。

なのに、なぜかものすごく嬉しそうに私を見ている。

「初めまして!」

そして、いきなり両手を握られた。

「え、あ……はい」

「澤登鈴子です。陸斗の母です」

「……え?」

陸斗さんの、お母さん?

反射的に陸斗さんを見ると、彼は静かに目を閉じた。

何、その反応。

「お母様……?」

「そう!」

鈴子さんは満面の笑みで頷く。

「よろしくね、奏ちゃん」

「……ちゃん?」

今日、初対面ですよね?

少し離れたところから、聖子さんが深いため息を吐いた。

「姉さん」

「なぁに?」

「いきなり距離が近すぎるのよ」

……姉さん?

今度は聖子さんを見る。

私の顔を見て、聖子さんも気づいたらしい。

「あ、そうか。奏さんには言ってなかったわね」

「……何をですか?」

聖子さんが鈴子さんを指した。

「この人、私の姉なの」

「……え?」

二人を見る。

もう一度見る。

「聖子さんの……お姉さん?」

「そうよ」

「ええっ」

全然知らなかった。

「似てないでしょう?」

聖子さんが言う。

「ちょっと聖子!」

鈴子さんがすぐに反応する。

「性格がよ」

「それ、もっと失礼じゃない!」

……なるほど。

だから聖子さん、この人にだけ異様に遠慮がないんだ。

一つ謎が解けた。

「つまり、鈴子さんが陸斗先生のお母様で、聖子さんのお姉さん?」

「そういうこと」

「なるほど……」

やっと理解できた。

と思ったのに。

「奏ちゃん、お腹空いてない?」

鈴子さんが、いきなり話を変えた。

「はい?」

「クッキー作ってきたの」

その瞬間、周囲の空気が妙になった。

純さんが目を逸らし、愛梨さんは無言。征さんはパソコンへ視線を戻し、陸斗さんまで微妙な顔をしている。

「……?」

何、その反応。

「姉さん」

聖子さんが額を押さえた。

「それは勧めないで」

「何でよ!」

「初対面の奏さんに罰ゲームさせないで」

「罰ゲームって何よ!」

「母さん」

今度は陸斗さん。

「それは置いておいてください」

「あなたまで!」

私は三人を見た。

……何、この家族。

「大丈夫よ、奏ちゃん」

鈴子さんがにっこり笑う。

「私、元裁判官だから」

「……はい?」

何の大丈夫?

「姉さん!」

聖子さんの声が響いた。

「そこで経歴出す必要ないでしょう!」

「だって安心するかと思って」

「逆に混乱するわよ!」

その通り。

ものすごく混乱している。

私は改めて周囲を見渡した。

ホワイトボード。

情報を淡々と調べ続けている征さん。

常識人に見えて、意外と容赦のない愛梨さん。

勢いの塊みたいな純さん。

世話焼きな聖子さん。

穏やかだったのに、急に鋭い顔になる茂樹先生。

そして、元裁判官だというのに、初対面の私の手を握って「奏ちゃん」と呼び、手作りクッキーを勧めてくる鈴子さん。

最後に、相変わらず愛想のない陸斗さん。

……強烈な人が、また増えた。

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