薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
そんな我が家で、一日のうち一番大変なのは、間違いなく朝だった。

学校や保育園へ送り出す時間は、毎日ほとんど戦争になる。

「ママー! 部活のユニフォームどこ!?」

「ママー! タオルは!?」

中学生になった然と岳が、二階からほぼ同時に叫ぶ。

「昨日、自分で準備しなさいって言ったでしょう!」

そう返したところで、今度は美蘭がランドセルを開けたまま声を飛ばしてくる。

「ママー! 宿題のノート見た?」

「見た!」

「連絡ノート書いてくれた?」

「書いた!」

「どこ?」

「前のポケット!」

「ない!」

「ある!」

絶対ある。

昨日、私が入れた。

その間にも、別方向から、

「ママー! 橙が泣いてるー!」

と声が飛んでくる。

分かってる。

さっきから全力で泣いてる。

抱き上げたい。

でも、本気で手が足りない。

あと四本くらい欲しい。

いや、六人いることを考えたら、それでも足りないかもしれない。

すると今度は、胡凛がものすごい勢いで走ってきた。

「ママー! トイレ!」

「行っておいで!」

「もれるー!」

「じゃあ早く行って!」

「ママきてー!」

「一人で行けるでしょう!」

「むりー!」

無理じゃない。

昨日は一人で行ってた。

でも、三歳児に昨日の成功体験を説いている時間なんてない。

「ちょっと待って! 今行くから!」

そう言いながら、私はふと思った。

おかしい。

何で全部、私なの。

「……パパは?」

誰も答えない。

「パパは何処よー!」

とうとう家中に響く声で叫ぶと、二階から妙に落ち着いた声が返ってきた。

「いますよ」

「いるなら出てきてください!」

数秒後、階段を降りてきた陸斗さんは、何故かもう完璧なスーツ姿だった。

髪も整っている。

ネクタイまで完璧。

対して、私の周囲では橙が泣き、胡凛が「もれるー!」と跳ね、美蘭がノートを探し、二階では然と岳が部活用品を探している。

その真ん中で。

陸斗さんだけが。

完成している。

「何で一人だけ仕上がってるんですか!」

「……仕事へ行く準備を」

「見れば分かります!」

「すみません」

「謝る前に橙抱いて! 胡凛トイレ! あと、然の水筒と岳のタオル、美蘭のノート!」

「全部?」

「全部です!」

「はい」

ようやく陸斗さんが動き出したところで、今度は翠が私のスマートフォンを持ってきた。

「ママー、ばあばから電話鳴ってるよ」

「えっ、朝から!?」

画面を見る。

鈴子さん。

よりによって、一番出たら駄目な時間。

でも出なかったら、たぶんまた掛かってくる。

私は諦めて通話ボタンを押した。

「はい、もしもし?」

『奏ちゃん、おはよう!』

朝から元気。

ものすごく元気。

対して私は、すでに一日分くらい疲れている。

「おはようございます。どうしました?」

『明日の集まりの段取りについてなんだけど――』

「今なの!? この時間に!?」

思わず声が大きくなった。

「勘弁してくださいよ! 今、家の中とんでもないことになってるんです!」

『あら、そうなの?』

「そうなの? じゃないです!」

明日は、胡凛の四歳の誕生日パーティー。

当然のように澤登家総出で集まる予定になっている。

ちなみに陸斗さんは、去年の春から澤登法律事務所の所長になった。

茂樹先生は第一線を退き、今では仕事もかなり減らして、ようやく少しゆっくり過ごすようになった。

その代わり、増えた自由時間をほぼ家族に使っている。

特に。

孫。

凄い。

『だから、明日の段取りを今のうちに確認しておこうと思って』

「今じゃなくてもいいですよね!?」

『じゃあ、お昼?』

「それでお願いします!」

即答して、ようやく電話を切った。

振り返ると、陸斗さんは橙を抱き、胡凛は無事にトイレへ向かい、美蘭は自分でノートを発見し、然と岳は二階から、

「あったー!」

と叫んでいる。

……最初から自分たちで探してよ。
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