薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
「それと、もう一つ」

聖子さんが言った。

まだあるの?

「奏さん、今仕事探してるでしょう?」

「はい」

「ここで働かない?」

「…………」

今日は何回驚けばいいんだろう。

「ここって……この法律事務所ですか?」

「そう」

「私、法律の知識ないですよ」

「最初から弁護士やれなんて言わないわよ」

「それはできません」

「分かってます」

思わず返すと、聖子さんが笑った。

「奏さん、英語得意でしょう?」

「あ……」

「高校時代にも留学して、大学も英文科だったって言ってたじゃない」

「はい」

「うちも英文の資料や契約書、海外関係の書類を扱うことがあるの」

愛梨さんも頷く。

「翻訳の下準備や英文資料の整理、内容確認など、お願いできる仕事はあります」

「もちろん」

陸斗さんが付け加える。

「法律判断を任せるわけではありません。あなたの能力の範囲でできる業務です」

英語。

久しぶりに、その言葉が仕事として自分へ向けられた気がした。

今まで仕事は、生活するために必要なものだった。選ぶ余裕なんてなかったし、大学を卒業して商社へ入り、その会社が潰れてからは、とにかく働けるところを探した。

今日を生きるため、明日の家賃を払うため。

それだけだった。

「アルバイトからでいいのよ」

聖子さんが言う。

「いきなり全部決めなくていい」

「条件については、こちらから正式に提示します」

陸斗さんも続けた。

「勤務時間、時給、業務内容。確認して、納得できるなら契約してください」

「……ちゃんとしてますね」

思わず言った。

「法律事務所ですから」

「そうでした」

さっきから捜査会議みたいだったから、忘れかけていた。

純さんが笑っている。

「どう?」

聖子さんに聞かれ、私は少し考えた。

十二億円。

もう生活のために働かなくてもいいのかもしれない。

たぶん、一生慎ましく暮らすだけなら困らない。

でも、そう思った瞬間、なぜか嫌だった。

働かなくていいから何もしない。それは、私が欲しかった人生じゃない。

だったら今度は、生きるためだけじゃなく、自分がやってみたいことを選んでもいいんじゃないだろうか。

「……仕事、やってみたいです」

聖子さんの顔が、ぱっと明るくなった。

「ほんと?」

「はい」

口にしてから、少し照れた。

「英語を使う仕事、嫌いじゃないので」

違う。

嫌いじゃないどころか、本当は好きだった。

ずっと。

「じゃあ決まり!」

純さんが手を叩く。

「まだ決まってません」

陸斗さんが即座に止めた。

「もういいじゃん」

「条件提示前です」

「堅い」

「当然です」

「でも本人、やるって」

「正式な雇用は別の話です」

「はいはい、弁護士さん」

また笑ってしまう。

この事務所に来てから、何度目だろう。

昨日まで、こんなに笑ったことなんてほとんどなかったのに。

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