薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
「それで?」

鈴子さんが再びこちらへ身を乗り出した。

まだ忘れてなかったらしい。

「お部屋は?」

「母さん」

「見るだけ!」

「押しつけないでください」

「押しつけてないわよ」

「勢いが押しつけなんです」

確かに。

「奏ちゃん、見る?」

聞かれて、私は天井を見上げた。

この上に空いている部屋がある。

何かあれば、すぐ下が法律事務所。

そして、その隣には澤登陸斗。

ちらっと本人を見る。

相変わらず愛想のない顔をしている。

「……見るだけなら」

そう言った瞬間、鈴子さんの顔が輝いた。

「じゃあ行きましょう!」

「今から!?」

「善は急げよ!」

「母さん」

「何よ」

「鍵の確認が先です」

「茂樹さん、持ってない?」

急に振られた茂樹先生がポケットを探る。

「えーっと……」

「父さん」

「何だ?」

「管理会社へ確認してください」

「うちのビルなのに?」

「うちのビルだからこそです」

「堅いわねぇ」

「当然です」

また全員が好き勝手に喋り始める。

私は、その真ん中で不思議な気持ちになっていた。

今日、約十二億円が私のものになった。

それだけでも十分、人生が変わる出来事だったはずなのに、なぜか今の私の頭に浮かんでいるのは、お金ではなかった。

仕事。

住む場所。

そして、ついさっき出会ったばかりの、この騒がしい人たち。

「神宮寺さん」

陸斗さんに呼ばれて顔を上げる。

「はい」

「一つだけ」

「何ですか?」

「今日、全部決める必要はありません」

「……」

「お金を手にしたからといって、急に人生すべてを変える必要もない。一つずつ、自分で決めればいい」

さっきまでとは、ほんの少しだけ違う声だった。

私は彼を見る。

――ここからは、私が選ぶ。

銀行を出た時、そう決めた。

誰かに言われたからじゃない。

お金があるからでもない。

自分で、自分の人生を選ぶ。

「……分かりました」

そう答えると、陸斗さんがほんの少しだけ目を細めたように見えた。

一瞬だったから、きっと気のせい。

「じゃあ」

私は立ち上がった。

「まず、お部屋だけ見せてもらってもいいですか?」

「もちろん!」

答えたのは、なぜか鈴子さん。

「母さんの部屋ではありません」

「細かいわねぇ!」

また笑いが起きる。

そんな声を聞きながら、私はもう一度ホワイトボードを振り返った。

少し前まで、自分の人生は灰色だと思っていた。

でも今日だけで、ずいぶん知らない色が増えた気がする。

まだ、薔薇色が何色なのかなんて分からない。

だけど、もしかしたら人生って、ある日突然すべてが塗り替わるんじゃなくて、こんなふうに一色ずつ、自分で選びながら増やしていくものなのかもしれない。

そして、この時の私はまだ知らなかった。

これから見に行く、たった一つの空室が――私とあの容赦のない弁護士との距離を、とんでもなく近くしてしまうことを。
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