薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
「ただ」

低い声が、笑いの残る空気を一瞬で引き締めた。

ずっと黙って聞いていた大雅さんが、腕を組んだまま私を見る。

「一つだけ言っとく。調査を頼むかは、あんたが決めればいい。ここで働くかも、どこに住むかも同じだ」

「はい」

「ただし、安全の確保だけは早急に必要だ」

その目が鋭くなる。

「今すぐ危険が迫ってると決まったわけじゃない。だが、過去の人間関係は切れてないし、今も相手から連絡が来てる。その上、今日からあんた自身の状況も変わった」

十二億円。

「何も起きてない今だから動ける。起きてからじゃ遅い」

その言葉だけは、笑えなかった。

「……分かりました」

私が答えた瞬間、鈴子さんがぱんっと両手を合わせた。

「そういうこと! つまり、安全の確保です!」

「安全の確保だね」

茂樹先生。

「安全の確保ね」

聖子さん。

「安全の確保です」

愛梨さん。

「最優先ですね」

征さん。

「安全の確保!」

純さん。

「純さん。“確保”だけ強調しないでください」

陸斗さん。

大和さんまで、笑いながら続ける。

「まあ、安全の確保だね」

私は、しばらく全員を見回した。

「……この事務所、たまに合唱するんですか?」

純さんが盛大に吹き出し、鈴子さん、聖子さん、大和さんまで笑い始めた。

大雅さんだけは呆れたように息を吐き、もちろん陸斗さんは笑っていない。

……たぶん。

「神宮寺さん」

「はい」

「笑っている場合ではありません」

「先生が一番、笑わせてる気がするんですけど」

「なぜ俺なんです?」

「何となく」

「理不尽ですね」

また少しだけ笑った。

けれど、そのあとホワイトボードへ目を向けると、笑いは自然に引いていった。

父。

母。

未來。

坂上さん。

馬淵信治郎。

三人の元彼。

ずっと終わったことだと思っていた。

知らなくていい。思い出さなくていい。

そうやって生きてきたけれど、本当は何も終わっていなかったのかもしれない。

「……お願いします」

笑い声が静かになる。

陸斗さんが私を見た。

「何を、ですか」

やっぱり、そこまできちんと言わせるんだ。

一度息を吸う。

「正式に、調査をお願いします。両親の事故も、会社のことも、坂上さんが何をしたのかも。それから……未來のことも」

もう、知らないままではいたくない。

「私が知らなかったことを、ちゃんと知りたいです。どこまで行くのか分からないですけど……お願いします」

陸斗さんは黙ったまま私を見つめ、しばらくしてから、ゆっくりと頷いた。

「承りました」

その一言で、何かが決まった。

十二億円を手にした時とは全然違う。

今度は、私自身が選んだ。

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