薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
その時、愛梨さんが静かに手を上げた。

「荷物を取りに戻るのでしたら、私も同行します」

「愛梨さん?」

「女性の一人暮らしのお部屋ですよね。着替えや身の回りの物をまとめるなら、男性ばかりで入るより、私がいた方がいいと思います」

「あ……」

確かに。

下着もある。

化粧品もある。

その他にも、男性には見られたくないものくらい普通にある。

「お願いします」

私が言うと、大雅さんもすぐに頷いた。

「それがいい。俺は車で待機する」

「入らないんですか?」

「必要がなければ入らない。まず、あんたと立花さんで部屋に入れ」

完全に仕事の声だった。

「外から見て何か違和感があれば、入る前に言え。中でも同じだ。おかしいと思ったら勝手に触るな」

思わず背筋が伸びる。

「分かりました」

「何もなければ、必要な荷物を持って戻ればいい」

何もない。

それが一番いい。

「陸斗」

大雅さんが呼ぶ。

「何です」

「お前も来い」

「俺も?」

「担当だろ」

「荷物を取りに行くのは弁護士業務ではありません」

「知ってる」

大雅さんは一切動じない。

「何かあった時、本人に説明する人間がいた方が早い。俺は外を見る」

陸斗さんが一度だけ息を吐いた。

「……分かりました」

珍しく、すぐ折れた。

純さんが、にやっとする。

「奏ちゃん、護衛三人付きじゃん」

「純さん」

陸斗さん。

「愛梨さんは護衛ではありません」

「そこ?」

また笑いが起きる。

でも今度は、私も完全には笑えなかった。

ほんの数時間前まで、私は今日もいつもの部屋へ帰るつもりだった。

それが今は、これから必要な物だけを取りに行き、今夜はそこへ帰らない方がいいと言われている。

朝、家を出た時には考えもしなかったことばかりが、次々と現実になっていく。

「神宮寺さん」

陸斗さんの声に顔を上げる。

「準備できますか」

私は鞄を持ち直した。

「はい」

そして、ホワイトボードを一度だけ振り返る。

神宮寺奏。

そこから伸びる、いくつもの線。

今日、私は十二億円を手にした。

人生をやり直そうと思った。

でもまさか、その最初の一歩が、自分の家へ“帰らないための荷物”を取りに行くことになるなんて。

そんなこと、朝の私は想像もしていなかった。

「行くぞ」

大雅さんの低い声がする。

「はい」

私は愛梨さんと並んで事務所を出た。

その後ろから、陸斗さんが続く。

――何もなければいい。

この時は、本当にそう思っていた。
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