氷の公爵様は、愛を知らない令嬢を離してくれない
第十九話 花嫁の日
――結婚式当日。
まだ朝日も昇りきらない早朝から、公爵邸は慌ただしく動いていた。
「エレノアちゃん、起きて!」
「……はい」
眠そうに目を開けるエレノアの前には、セシリアと侍女たち。
「今日は私たちに任せてちょうだい!」
「何をするのでしょう?」
「もちろん、あなたを世界一可愛くするのよ!」
「……?」
エレノアは首を傾げた。
けれど、言われるままに椅子へ座る。
髪を丁寧に整えられ、淡い化粧を施される。
そして最後に。
純白のドレスが運ばれてきた。
淡い青の花の刺繍が裾や胸元に散りばめられた、美しいドレス。
「……綺麗」
鏡の前で、エレノアが呟く。
「でしょう?」
セシリアが嬉しそうに笑った。
「エレノアちゃんが選んだドレスよ」
「はい」
青い花の髪飾りをつける。
「……完成!」
侍女たちが嬉しそうに顔を見合わせる。
「本当にお綺麗です」
「奥様、素敵です」
「ありがとうございます」
エレノアは少し照れたように笑った。
その笑顔を見て。
セシリアは目を細める。
「レオンハルト、驚くでしょうね」
「……旦那様が?」
「ええ」
◇
一方。
レオンハルトもすでに支度を終えていた。
公爵家の紋章を胸に飾り、普段以上に凛々しい姿だった。
「旦那様」
セバスチャンが声をかける。
「参列者もほぼ揃っております」
「ああ」
「閣下のお仕事関係の方々も、大勢お越しです」
「……そうか」
王宮関係者。
領地の管理を任せている者。
外交に携わる者。
さらにはレオンハルトと共に仕事をする騎士や貴族たち。
公爵家の結婚式ということもあり、多くの人間が集まっていた。
「皆様、奥様を一目見たいと楽しみにされております」
「エレノアを疲れさせるな」
「心得ております」
すると。
扉が開いた。
「レオンハルト」
セシリアだった。
「そろそろエレノアちゃんが来るわよ」
「……ああ」
「覚悟しておきなさい」
「何を?」
セシリアは意味深に笑った。
「見れば分かるわ」
◇
扉が開く。
「旦那様」
エレノアの声。
レオンハルトが振り返った。
「――」
言葉が止まった。
白いドレス。
淡い青の花。
美しく整えられた髪。
普段の幼さの残る少女とは違う。
今日は、紛れもなく花嫁だった。
「……綺麗だ」
思わず漏れた言葉。
「ありがとうございます」
エレノアは少し照れながら笑う。
「お義母様と侍女の皆さんが、可愛くしてくださいました」
「それでも」
レオンハルトはエレノアへ手を差し出す。
「君が一番綺麗だ」
「……」
エレノアの頬がほんのり赤くなる。
「はい」
その手を取った。
◇
式場には、王都中から集まった人々。
外には街を彩る花と祝福の旗。
公爵家の結婚式を祝うため、沿道にも多くの人が集まっていた。
「おめでとうございます!」
「公爵閣下!」
「奥様、お綺麗です!」
エレノアは目を丸くする。
「こんなにたくさんの人が……」
「君を祝っている」
「私を?」
「ああ」
レオンハルトが手を握る。
「大丈夫だ」
「はい」
エレノアは安心したように笑った。
◇
式場。
二人が祭壇の前へ進む。
そして。
今日の進行を務めるのは、もちろんセバスチャン。
「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」
セバスチャンが一礼する。
「これより、レオンハルト・アシュフォード公爵閣下と、エレノア・アシュフォード夫人の婚姻式を執り行います」
大きな拍手が響く。
エレノアが少し驚く。
レオンハルトは彼女の手をそっと握った。
◇
「レオンハルト・アシュフォード」
誓いの言葉。
「汝は、エレノアを妻として迎え、生涯その身を守り、共に歩むことを誓いますか」
「誓う」
迷いのない声。
「エレノア・アシュフォード」
「はい」
「汝は、レオンハルトを夫として迎え、共に歩むことを誓いますか」
エレノアはレオンハルトを見る。
ここへ来てからの三か月。
たくさんの食事。
庭での時間。
優しい人々。
雷の夜。
そして。
いつも自分の隣にいてくれた、この人。
「はい」
エレノアは微笑んだ。
「誓います」
拍手が大聖堂いっぱいに響き渡る。
指輪を交換する。
レオンハルトがエレノアの細い指へ指輪を通した。
「……綺麗です」
「気に入ったか?」
「はい」
今度はエレノアがレオンハルトの指へ。
「できました」
「ああ」
神父が静かに告げる。
「これにて、お二人は正式な夫婦となりました」
会場中から歓声と拍手が沸き起こった。
◇
式の後は祝宴。
料理が並び、音楽が流れる。
次々と祝福の言葉が届けられる。
「奥様、おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「奥様、とてもお似合いです!」
「ありがとうございます」
エレノアは一人ひとりに丁寧に頭を下げる。
レオンハルトは常に彼女の隣にいた。
「旦那様」
「何だ?」
「皆さん、とても優しいですね」
「君が好かれているんだ」
「……そうでしょうか?」
「ああ」
そこへセバスチャンが現れる。
「閣下。次はダンスでございます」
「分かった」
エレノアが目を丸くする。
「私、少ししか踊れません」
「大丈夫だ」
レオンハルトが手を差し出す。
「俺に任せろ」
「……はい」
エレノアはその手を取った。
◇
音楽が始まる。
レオンハルトがエレノアの腰へ手を添える。
「俺に合わせればいい」
「はい」
一歩。
二歩。
そして、くるりと回る。
エレノアの白いドレスがふわりと広がった。
「……わぁ」
思わず声が漏れる。
観客から歓声が上がる。
「素晴らしい!」
「お似合いです!」
レオンハルトは華麗にエレノアを導いていく。
彼女が躓きそうになれば支え。
回る時には手を引き。
決して不安にさせない。
「旦那様」
「何だ?」
「踊りやすいです」
「それならよかった」
「なんだか……」
エレノアが少し笑う。
「旦那様の近くは暖かいですね」
「……」
一瞬。
レオンハルトの胸が大きく鳴った。
「そうか」
「はい」
曲が終わる。
二人が礼をすると、大きな拍手が起こった。
エレノアは少し恥ずかしそうに笑う。
「楽しかったです」
「ああ」
「旦那様と踊れて嬉しかったです」
レオンハルトは微笑む。
「俺もだ」
◇
夜。
長い祝宴もようやく終わった。
二人で静かな廊下を歩く。
「今日は、本当にたくさんの人にお祝いしていただきましたね」
「ああ」
「私、こんなに祝ってもらったことはありません」
エレノアが指輪を見る。
レオンハルトは彼女の横顔を見つめる。
「これからは、何度でも祝ってもらえばいい」
「……?」
「君が幸せなら、それでいい」
「……」
エレノアは少し考えて。
「ありがとうございます、旦那様」
そう言って笑った。
その笑顔を見て。
レオンハルトも笑う。
こうして。
二人の結婚式は、王都中から祝福されながら幕を閉じた。
そして
二人は正式な夫婦として、新しい生活を始めることになる。
まだ朝日も昇りきらない早朝から、公爵邸は慌ただしく動いていた。
「エレノアちゃん、起きて!」
「……はい」
眠そうに目を開けるエレノアの前には、セシリアと侍女たち。
「今日は私たちに任せてちょうだい!」
「何をするのでしょう?」
「もちろん、あなたを世界一可愛くするのよ!」
「……?」
エレノアは首を傾げた。
けれど、言われるままに椅子へ座る。
髪を丁寧に整えられ、淡い化粧を施される。
そして最後に。
純白のドレスが運ばれてきた。
淡い青の花の刺繍が裾や胸元に散りばめられた、美しいドレス。
「……綺麗」
鏡の前で、エレノアが呟く。
「でしょう?」
セシリアが嬉しそうに笑った。
「エレノアちゃんが選んだドレスよ」
「はい」
青い花の髪飾りをつける。
「……完成!」
侍女たちが嬉しそうに顔を見合わせる。
「本当にお綺麗です」
「奥様、素敵です」
「ありがとうございます」
エレノアは少し照れたように笑った。
その笑顔を見て。
セシリアは目を細める。
「レオンハルト、驚くでしょうね」
「……旦那様が?」
「ええ」
◇
一方。
レオンハルトもすでに支度を終えていた。
公爵家の紋章を胸に飾り、普段以上に凛々しい姿だった。
「旦那様」
セバスチャンが声をかける。
「参列者もほぼ揃っております」
「ああ」
「閣下のお仕事関係の方々も、大勢お越しです」
「……そうか」
王宮関係者。
領地の管理を任せている者。
外交に携わる者。
さらにはレオンハルトと共に仕事をする騎士や貴族たち。
公爵家の結婚式ということもあり、多くの人間が集まっていた。
「皆様、奥様を一目見たいと楽しみにされております」
「エレノアを疲れさせるな」
「心得ております」
すると。
扉が開いた。
「レオンハルト」
セシリアだった。
「そろそろエレノアちゃんが来るわよ」
「……ああ」
「覚悟しておきなさい」
「何を?」
セシリアは意味深に笑った。
「見れば分かるわ」
◇
扉が開く。
「旦那様」
エレノアの声。
レオンハルトが振り返った。
「――」
言葉が止まった。
白いドレス。
淡い青の花。
美しく整えられた髪。
普段の幼さの残る少女とは違う。
今日は、紛れもなく花嫁だった。
「……綺麗だ」
思わず漏れた言葉。
「ありがとうございます」
エレノアは少し照れながら笑う。
「お義母様と侍女の皆さんが、可愛くしてくださいました」
「それでも」
レオンハルトはエレノアへ手を差し出す。
「君が一番綺麗だ」
「……」
エレノアの頬がほんのり赤くなる。
「はい」
その手を取った。
◇
式場には、王都中から集まった人々。
外には街を彩る花と祝福の旗。
公爵家の結婚式を祝うため、沿道にも多くの人が集まっていた。
「おめでとうございます!」
「公爵閣下!」
「奥様、お綺麗です!」
エレノアは目を丸くする。
「こんなにたくさんの人が……」
「君を祝っている」
「私を?」
「ああ」
レオンハルトが手を握る。
「大丈夫だ」
「はい」
エレノアは安心したように笑った。
◇
式場。
二人が祭壇の前へ進む。
そして。
今日の進行を務めるのは、もちろんセバスチャン。
「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」
セバスチャンが一礼する。
「これより、レオンハルト・アシュフォード公爵閣下と、エレノア・アシュフォード夫人の婚姻式を執り行います」
大きな拍手が響く。
エレノアが少し驚く。
レオンハルトは彼女の手をそっと握った。
◇
「レオンハルト・アシュフォード」
誓いの言葉。
「汝は、エレノアを妻として迎え、生涯その身を守り、共に歩むことを誓いますか」
「誓う」
迷いのない声。
「エレノア・アシュフォード」
「はい」
「汝は、レオンハルトを夫として迎え、共に歩むことを誓いますか」
エレノアはレオンハルトを見る。
ここへ来てからの三か月。
たくさんの食事。
庭での時間。
優しい人々。
雷の夜。
そして。
いつも自分の隣にいてくれた、この人。
「はい」
エレノアは微笑んだ。
「誓います」
拍手が大聖堂いっぱいに響き渡る。
指輪を交換する。
レオンハルトがエレノアの細い指へ指輪を通した。
「……綺麗です」
「気に入ったか?」
「はい」
今度はエレノアがレオンハルトの指へ。
「できました」
「ああ」
神父が静かに告げる。
「これにて、お二人は正式な夫婦となりました」
会場中から歓声と拍手が沸き起こった。
◇
式の後は祝宴。
料理が並び、音楽が流れる。
次々と祝福の言葉が届けられる。
「奥様、おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「奥様、とてもお似合いです!」
「ありがとうございます」
エレノアは一人ひとりに丁寧に頭を下げる。
レオンハルトは常に彼女の隣にいた。
「旦那様」
「何だ?」
「皆さん、とても優しいですね」
「君が好かれているんだ」
「……そうでしょうか?」
「ああ」
そこへセバスチャンが現れる。
「閣下。次はダンスでございます」
「分かった」
エレノアが目を丸くする。
「私、少ししか踊れません」
「大丈夫だ」
レオンハルトが手を差し出す。
「俺に任せろ」
「……はい」
エレノアはその手を取った。
◇
音楽が始まる。
レオンハルトがエレノアの腰へ手を添える。
「俺に合わせればいい」
「はい」
一歩。
二歩。
そして、くるりと回る。
エレノアの白いドレスがふわりと広がった。
「……わぁ」
思わず声が漏れる。
観客から歓声が上がる。
「素晴らしい!」
「お似合いです!」
レオンハルトは華麗にエレノアを導いていく。
彼女が躓きそうになれば支え。
回る時には手を引き。
決して不安にさせない。
「旦那様」
「何だ?」
「踊りやすいです」
「それならよかった」
「なんだか……」
エレノアが少し笑う。
「旦那様の近くは暖かいですね」
「……」
一瞬。
レオンハルトの胸が大きく鳴った。
「そうか」
「はい」
曲が終わる。
二人が礼をすると、大きな拍手が起こった。
エレノアは少し恥ずかしそうに笑う。
「楽しかったです」
「ああ」
「旦那様と踊れて嬉しかったです」
レオンハルトは微笑む。
「俺もだ」
◇
夜。
長い祝宴もようやく終わった。
二人で静かな廊下を歩く。
「今日は、本当にたくさんの人にお祝いしていただきましたね」
「ああ」
「私、こんなに祝ってもらったことはありません」
エレノアが指輪を見る。
レオンハルトは彼女の横顔を見つめる。
「これからは、何度でも祝ってもらえばいい」
「……?」
「君が幸せなら、それでいい」
「……」
エレノアは少し考えて。
「ありがとうございます、旦那様」
そう言って笑った。
その笑顔を見て。
レオンハルトも笑う。
こうして。
二人の結婚式は、王都中から祝福されながら幕を閉じた。
そして
二人は正式な夫婦として、新しい生活を始めることになる。