天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
朱璃が藍衣を恨んでいるなら関係の修復は難しいが、罪悪感を抱えているだけなら、話し合いの余地がある。

自分は姉を恨んでなどいない、それが伝わればいいのだ。

「実際にすべて姉のせいだとしたら、藍衣は恨むか?」

ぶるぶると大きく首を横に振る。

事故の日、なにが起きたのかはわからない。だが、ふたりには長い年月をともに過ごしてきた絆がある。一時の気の迷いを許せないほど、その絆は脆くない。

「それなら、手紙を書いてみたらどうだろう。文章なら冷静に受け取ってもらえるかもしれない」

黎士の提案に、きゅっと肌掛けを握る。

手紙なら、一方通行ではあるが気持ちを伝えることができる。恨んでいない、怒るつもりもないと伝えるだけなら充分だ。

「家に戻ったら、早速書いてみます」

「そうするといい」

読んでもらえると信じて――あわよくば返事をもらえることを祈って、この気持ちをしたためようと心に決める。

黎士がゆっくりと立ち上がった。

「せっかくだから、海でも見に行ってみるか?」

そう言って歩き出す彼のあとを、藍衣は追いかける。

< 100 / 252 >

この作品をシェア

pagetop