天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
その日の夜。寝室でそれぞれのベッドに入ったものの、藍衣はなかなか寝付けず、幾度となく寝返りを打っていた。
蘇ってくるのはパニックに陥った朱璃の姿。笑顔での再会を期待していた藍衣にとっては、あまりにも残酷な現実だった。
「眠れない?」
すでに眠ったと思っていた黎士から声をかけられる。藍衣のように寝付けなかったのか、あるいは――。
「起こしてしまいましたか?」
「いや。俺もいろいろと考えてた。……久しぶりに会ってあの反応じゃ、きつかっただろ?」
そう言って黎士は上半身を起こし、ベッドの縁に座る。
「ずっと考えていたんです。姉はどうして実家の屋敷ではなく、別の場所で療養しているんだろうって。……その理由がようやくわかって」
理由は、妹の顔を見ると取り乱すから――おそらくふたりが顔を合わせないように父が配慮したのだろう。
しばらく部屋に沈黙が流れたあと、黎士が冷静に切り出した。
「『ごめんなさい』って言ってたよな。『全部、私のせい』だと。つまり、お姉さんは藍衣を憎んではいない。俺には、許されたいという気持ちの裏返しに見えた」
黎士の言葉にハッとして、藍衣も飛び起きる。